SANSUI プリメインアンプ AU-D607G EXTRA の修理(その2) 2021.10.10


    ■「AU-D607G EXTRA」修理までのいきさつ

    今回修理した「AU-D607G Extra」です。

     「AU-D607G Extra」は以前に一度修理したことのあるアンプです。そのアンプはずっと保存してありました。

     約半年前、3月頃のことになります。私のオーディオ修理のページを見て「ヤフオクでAU-D607GExtraを落札したのだが故障しているので直してくれないか?」という問い合わせがありました。

     状況を確認すると「出品者にクレームを言ったのだが、商品案内に "プロテクトエラーが出ています”との記載をしており、承知で落札されたのだからクレームを言われる筋はないとのことであった。」というものです。

     落札者(修理依頼者)は素人の方でプロテクトエラーの意味が判らなかったようですが、「壊れています。修理が必要です」と正直に明記しない出品者もどうかと思ってしまいます。

     ともかく、プロテクトエラーが出ているということは、終段のパワートランジスタなどの破壊が予想されます。修理は簡単ではありません。そこで、一旦は修理をお断りしました。

     数日してまた連絡がありました。「色々な所に訊ねたが修理費用は高そうだ、そちらでなんとか安く直してくれないか」です。最近はオーディオ修理もご無沙汰で、アンプ修理にあまり気が進まないので、次のような提案をしました。

     「私の手元に修理済みのAU-D607GExtraがある。そちらのアンプの修理の代わりにこちらのアンプを修理完了品として送り返すことでどうだろうか」と持ち掛けると依頼者もこれに了承、修理としてお互いのアンプを交換した次第です。

     これにより、私の手元には壊れたアンプが残りました。


    ■恐るべしジャンクの「AU-D607G EXTRA」

     修理する気はないものの一応故障状況を確認してみることにしました。木製のカバーを開けて見てびっくりです。

     アンプ基板には埃が堆積しています。そして基板の右チャンネル回路の抵抗2本が焼損しています。基板にも黒い焦げ跡が残っています。一瞬火が吹いたことと思われます。

     このアンプ、更に調べて行くと驚くことばかりです。シャーシーが経年で汚れていることは別におかしなことではありませんが、シャーシーの至る所に接点復活剤がベタベタと油を撒いたかのように残っています。恐らく接点復活スプレーを吹きまくったのでしょう。

     スピーカー端子が取り付けてあるプロテクト基板にある電源ヒューズは切れていましたが、恐ろしいことにヒューズの代わりに電線がヒューズホルダーに差し込んでありました。こんな状態で電源を入れようものなら何が起きるのか判ったものではありませんが、ヤフオク出品者や落札者(修理依頼者)はこの状態で電源を入れたはずです。恐ろしいことです。

    基板の上には埃が堆積しています。
    基板上の2本の抵抗が焼損しています。
    切断したヒューズの代わりに電線(半田?)が差し込んでありました。

     次にスピーカー保護リレーです。古いアンプでは経年によりリレーの接点接触不良が起ります。修理では、リレーを交換するか接点を清掃するのが一般的です。所がこのアンプは構造上リレーの取り外しは簡単には出来ません。

     奥まった所にあるリレーをよく見てみたらリレーカバーにドリルで穴が開けられており、そこから接点復活剤を注入したようです。穴の周囲には接点復活剤が残っていました。

    写真では判り難いですがメインボリュームは接点賦活剤でベタベタです。 リレーカバーに穴を開けて接点復活剤を注入したようです。 スピーカー端子板にまで接点復活剤が漏れてきています。


    ■清掃と故障個所の調査

     埃だらけの状態を見てしまうとこのままにしておくのはなんとも気が落ち着きません。回路不良を調べて直すかどうかは別にして、まずは清掃だけでもしておくことにしました。

     すべての基板類を取り外し、シャーシーや基板類をケミカルの洗浄スプレーを使って埃や接点復活剤、グリス汚れを洗い流しました。

     スピーカー保護リレーはこのままではまずいので取り外して手持ちのリレーと交換しておきました。

    分解して清掃をします。
    分解を進めます。
    埃の洗浄を終えたメインアンプ基板です。

     終段のパワートランジスタ(C3284、A1303)は、エミッタ、ベース、コネクタの3端子間が全て通状態でショートしていました。ショートでなくオープンなら良かったのですが、エミッタにつながる0.33Ωのセメント抵抗にも過大電流が流れ断線状態になっていました。

     ざっと調べて見た所、焼損箇所以外にも断線状態や値が大きく変化した抵抗が幾つか見つかりました。また終段以外のトランジスタにも不良品が幾つかありました。更に詳細に調べるとまだまだ不良個所があるかも知れません。

     不良品の数のあまりの多さに直す気持ちは全く沸いてきません。取り合えず、右チャンネルへの電源供給のコネクタを外して左チャンネルだけでも動作するか確認してみました。

     ヒューズを交換し、電源投入するとプロテクトエラーとはならず、数秒後にリレーが動作しました。AUX入力からの音楽ソースを鳴らしてみたら左チャンネルから正常に音が出ました。プリアンプからの右出力をメインアンプの左に繋ぎ変えると右側の信号が左から正常に出力されました。

     プリアンプとメインアンプの左チャンネルは正常です。メインアンプの右チャンネルのみの不良です。

    基板洗浄後の焼損部分です。
    終段のパワートランジスタはショートしています。セメント抵抗は断線していました。他にもたくさんありそうです。 定格は7Aのようですが5Aのヒューズを取り付けました。奥の中央の白い部品が交換したリレーです。

     ここまでで調査を終え、いつか修理する時が来るまでアンプはこのまま置いておくこととしました。

     以上までがこの春の出来事となります。


    ■故障個所の詳細調査と修理

     壊れた役立たずのアンプを見るにつけなんとかしたいと思いながらも修理の大変さにずっと尻込みしていたのですが一念発起修理に挑戦してみることにしました。

     詳細に調べるにあたり参考にした回路図は、hifi-engine から入手したAU-D9とAU-D907Fの回路図です。AU-D9の回路図では、回路図の部品番号とAU-D607GExtraのアンプ基板に書かれた部品番号がほとんど一致していましたが、過電流検出回路等一部異なる部分もありました。

     なお、過電流検出回路部分は、部品番号は異なりますが回路構成は、AU-D907Fの回路図どおりとなっていました。

     これらの回路図を基に不良個所を調査しました。幸いなことに初段のFET差動入力部や差動ダイヤモンドバッファや電圧増幅部、BIAS回路までは、どうやら問題なさそうでした。

     結果、以下のようにメインアンプ終段の不良部品についてそれぞれ代替品に交換しました。

    メインアンプ回路
    部品番号部品名代替品用 途
    Q172SC32842SC3519A終段パワートランジスタ
    Q182SA13032SA1386A終段パワートランジスタ
    Q192SD600TTC004Bフィードフォワード回路
    Q202SB631TTA004Bフィードフォワード回路
    Q132SC1904TTC004B励振用トランジスタ
    Q142SA899TTA004B励振用トランジスタ
    R44,R430.33Ω5W0.2Ω5W終段パワトラエミッタ抵抗
    R39120Ω(1/2W)120Ω(1/4W型1/2W)励振用トランジスタエミッタ抵抗
    R35,36390Ω(1/2W)390Ω(1/4W型1/2W)BIAS出力
    R6033Ω(1/2W)33Ω(1/4W型1/2W)フィードフォワードBIAS回路
    R48100Ω(1/2W)100Ω(1/4W型1/2W)フィードフォワード出力
    R4515Ω(1/2W)15Ω(1/4W型1/2W)フィードフォワードエミッタ抵抗
    R30,R31220KΩ(1/4W)220KΩ(1/4W)電圧増幅
    10Ω(1W)10Ω(1W)グランドフローティング
    プロテクタ部
    部品名代替品用 途
    2SC23202SC1815Q18 過電流検出回路
    2SA9992SA1015Q18 過電流検出回路
    680Ω(1/4W)680Ω(1/4W)Q18 過電流検出回路
    100Ω(1/4W)100Ω(1/4W)Q18 過電流検出回路

     不良部品の交換に合わせて左チャンネルも含め電解コンデンサをオーディオ用コンデンサーに交換しました。

    交換した不良部品です。
    修理完了後のアンプ基板です。電解コンデンサも新しくなりました。
    修理完了後の基板裏側です。


    修理後の基板右チャンネル部分です。