その昔、カセットデッキはTC-K65を使用。TC-K65は2ヘッドデッキだった。その後に使用したミニコンポのカセットデッキも
全て2ヘッド機。デッキの性能は時代とともに高機能化し、80年過ぎから世に3ヘッド機が登場したが手にすることは全く無かった。
その3ヘッド機を一度は体験して見たいと、ヤフーオークションにてジャンク品を探すこととなる。
どうせジャンクを探すなら、その昔、名機と呼ばれたデッキにしょうと色々と眺めて見るが、
流石に名機と呼ばれた物は今の時代でも値が高く、なかなかに入手不可能。
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TD-V631のジャンクを手に入れる |
AKAIのGXシリーズ、AIWAのXKシリーズ、NAKAMICHIのドラゴンなどなど。ビクターは、TD-V931辺りを狙っていたのだが、
その弟分のTD-V731にも全く手が届かず、結局、前世代機「TD-V631」のジャンクを手に入れた次第。ちなみに落札価格は100円だった。
値段が値段だけに擦り傷だらけの「TD-V631」が届く。出品時のジャンク理由は、「早送り・巻き戻しは出来るが再生速度が遅い」、
「録音については未確認」というものであった。
早速に動作確認を行って見る。
確かに再生速度が遅い。間延びしたような音で再生される。早送りは問題なし。巻き戻しは、操作ボタンの反応がおかしい。
素直に巻き戻しが始まるかと思えば、早送りになったり、巻き戻しを始めたとたんに早送りになったりする。
デッキメカの機構不具合ではなく、操作ボタンに使われているタクトスィッチの接点接触不良のような気がする。
再生や早送り、巻き戻しを何度も繰り返していたら、再生速度が正常になった。
長らく放置されていたことにより重くなっていた回転部分のオイルやグリスの粘性が軽くなったものと思われる。
巻き戻しの不安定さは一向に直らない。こちらは、分解してタクトスィッチを洗浄する必要がある。
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3HEADの文字が自己主張している ヘッドフォン端子は金メッキ |
録音用ボリュームは程良い大きさだ |
表示パネルに使われているFLDの輝度はまだ低下していない |
背面のRCA端子は金メッキ LINE入力の他にCDダイレクト入力が備わる |
他の操作ボタンを押して表示パネルの反応を確認してみる。パネルの表示も含めてボタン操作に問題は無い。
このデッキでは、テープセレクトは自動化されている。手持ちのノーマル(TYPET)、クローム(TYPEU)、メタル(TYPEW)の各テープを順にセットしてテープセレクトを確認してみる。
結果は上々だ。表示パネルには、セットしているテープの種類が正しく表示された。
続けて録音テストを行って見る。問題無く録音出来る。このデッキ、さほど手間をかけずとも復活できそうだ。
■TD-V631の分解と修理
トップカバーと裏蓋を開け、内部の状況を確認してみる。結構な配線が這い回っている。
フラットケーブルは一本だけで単線ケーブルの配線ばかりだが基板との接続にはコネクタが使われており、分解・組立は容易そうだ。
このデッキ、ネット情報ではダイレクトドライブとの書き込みがあり、3ヘッドとダイレクトドライブの
2つの革新技術を楽しめると期待していたのだが、カバーを開けてがっかり、ベルトドライブメカだった。
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デュァルキャプスタン、3ヘッド ヘッドの磨耗は無さそう。キャプスタン軸やピンチローラーは清掃が必要だ |
上部ケースを開けて見る。電源基板が裏向けに取り付けてある。入力切替やボリューム操作のための長い4本の丸棒が印象的 |
デッキメカ部分。ダイレクトドライブかと思っていたらベルトドライブであった。このデッキは3モーター方式だ。左写真はメインモーター、右写真は、早送り・巻き戻しモーターとメカ制御モーター |
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ドルビーBを処理する日立のIC「HA12088ANT」 録音ヘッドと再生ヘッドが独立したため、録音用と再生用の2個搭載されている |
こちらはHX-PROを処理するNECのIC「uPC1297CA」 HX-PROは録音時のみ働くため1個の搭載 |
底面の裏蓋を外してみる |
電源回路部分 |
化粧パネルを外し、ケーブルの結束バンドを外して、順次分解を進めて行く。操作ボタンの下に隠れているタクトスィッチには、接点復活剤を流し込みグリグリして接触不良を解消しておいた。
デッキメカについては、アイドラーホィールとキャプスタンホィール、ゴムベルトをアルコールで清掃する。
キャプスタン軸やヘッド周辺、ならびにピンチローラに付着しているテープの磁性粉をアルコールを浸した綿棒でしっかりと拭い取っておいた。
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デッキメカを裏側から見る |
前面のアルミ化粧パネルを外す |
カセットホルダーのアクリル蓋を外す |
前面パネルならびにデッキメカを取り外す |
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取り外したデッキメカ 早送り・巻き戻しは1モーターによる振り子式 |
キャプスタン軸の白いパーツ部分でアイドラーホイールを廻す構造だ |
メインモーター部分を取り外し、キャプスタンホィールとゴムベルトを清掃する |
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メインモーターを元に戻す |
分解とは逆の手順で組み立て、最後にヘッドイレーサーでヘッド部分の消磁を行った。このあとじっくりと試聴を行ってみた。
■TD-V631の試聴
デッキのモニター出力を、録音ヘッドに加わるソース音源と再生ヘッドからのテープ出力の交互に切り替えて、
音質確認を行って見た。
テープ再生時の出力は、ソース音源の出力よりもややレベルが低いものの音質変化はあまり感じられない。
ところが、ドルビーNRをオンにするとわずかに変化する。高域がぐっとつまった音に変化するのだ。
聴いていて、なんとももどかしい苛立ちを感じさせてしまう変化だ。念のために、ノーマル、クローム、メタルの各テープでも確認したが同じように感じる。
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このIC周辺の回路に問題あり? |
再生側のドルビーNRが効き過ぎているようだ。あるいは、録音側のドルビー回路が正常に働いていないのかも知れない。
ちなみに、ドルビーオンの時、ソース音源の出力モニターも変化するかと思ったが、こちらはデッキの入力部分から
モニターしているらしく音の変化は全く無かった。
そこで、ドルビーBで録音された市販のミュージックテープを使って、他のカセットデッキと聴き比べを行ってみた。
デッキ間の音質の差は問題ではなく、それぞれのデッキで、ドルビーオンとオフでどの程度高域が変化するか確認してみた。
さて結果だが、それぞれにドルビーのオン・オフで高域は当然変化するものの、
やはりTD-V631では高域がつまり気味になりもどかしさを感じさせてしまう。
その他のデッキでは、もどかしさを感じさせるような高域のつまり現象はなかった。
TD-V631のドルビーNR回路の調整不良か、あるいは部品劣化による変化か、それとも元々こういう仕様だったのか、
流石に、ドルビーオフで録音・再生した場合にはいい音が出る。ただし、テープヒスノイズに目をつぶればの話だが。