SONY カセットテープデッキ TC-K65の修理 2008.10.12

    20年振りの再会
    30年間保存しておいた取扱説明書

     SONYのメタルテープ対応デッキ、1979年頃の製品だ。このジャンク品を最近ヤフーオークションで入手した。

     実はこれと同じ物を30年前に購入し10年程使用した。そのデッキは、自宅を新築した際に処分してしまったのだが、今回20年振りに懐かしい製品を手にしたわけだ。

     このデッキ、是非とも当時のような姿に蘇らせたいものだ。

     ジャンク出品の理由は、「再生・録音は出来るが、巻き戻し、早送りが出来ない」というものだった。巻き戻しや早送りが出来ないのでは、この機種の特徴であるRMS(ランダムメモリー・ミュージック・システム)も全く機能しない。


    ■TC-K65ジャンク品の動作検証

     自宅にデッキが届き、早速に外観チェックと簡単な動作確認を行って見る。

     前面の操作パネルは煙草のヤニでやや茶色っぽくなっている。煙草のヤニの匂いはどうにも受け付けられない。徹底した清掃が必要だ。ケース下面にやや錆びが見られるが、年数を考えると問題ないレベルだ。

     カセットテープをセットし動作確認を行って見る。ロジカルスィッチの反応は上々だ。ヘッドフォンを差込、テープを再生して見る。ヘッドフォンからは、ガリも雑音も無いクリアな音が聴こえる。

     ここで、巻き戻しボタンを押すが、確かに巻き戻しが出来ない。ちなみに早送りボタンを押してみるも全く反応しない。

     次に、録音テストを行って見る。MDデッキのアナログ出力を背面の「REC IN」に接続し、録音待機状態にして、ヘッドフォンでモニター確認を行う。録音ボリュームにガリも無く、録音レベルの調整も問題ない。プレイボタンを押して録音を開始する。

     数分の録音の後、別のデッキで巻き戻して再生確認を行って見る。問題無く録音されていた。再生・録音とも、内部の電子回路に問題はなさそうだ。

     ただし、メカ機構に若干の問題がある。再生や録音の開始直後にテープの巻き取り機構がもたつくのだ。テープの巻き取りが遅れるものだから、どうかするとテープがキャプスタンに巻き付きそうになる。

     操作パネルのヤニやケースの汚れ、スィッチやボタンの汚れを洗浄するためには完全な分解が必要だ。取り合えずケースカバーを開けて見る。カバーを外すと、ぷ〜んとキナ臭い匂いが立ち込める。煙草のヤニの匂いとは別の匂いだ。電解コンデンサーの電解液が蒸発した匂いだ。

     このデッキは密閉タイプだから内部に埃は全く見られない。綺麗なものだが、全体に、経年と電解コンデンサから蒸発した電解液の蒸気で茶色に染まっている。

    デッキ内部
    (清掃修理完了後の写真)
    ロジカルコントロールIC(4ビットマイコン)付近
    30年前の設計だけに外付けのプルアップ(ダウン)抵抗がやたらと多い
    センダスト・フェライトヘッド
    ヘッドの磨耗はなさそうだが、錆びらしきものが出ている

    ■TC-K65の清掃と修理

     まずは、全体の洗浄作業に取り掛かる。ケース、基板等、分解出来るものは全部分解して、金属パーツ類や配線材は中性洗剤で洗浄し、電子基板は、アルコールのスプレー洗浄剤を使って洗浄する。

     電解コンデンサは、全数を交換することにして、基板上の全てのコンデンサの定格(耐電圧、容量)を調べる。ざっと80個程度のコンデンサ取替えとなる。


    ・早送り・巻き戻し不良の原因調査

     コンデンサ手配の準備、パーツの洗浄が完了したところで、テープ走行系の不良原因の調査を開始する。このデッキの走行メカには、2個のモーターが使われている。一つは、周波数サーボーのブラシレスモーターでキャプスタン軸を回転させるものだ。もう一つは、ハイトルクモーターでテープの早送り、巻き戻しを行うものである。

     事前の動作確認ではハイトルクモーターが全然回転していなかった。手で補助してやると、時としてゆるゆると廻ることもあるが、この程度の回転では、トルク不足でテープを巻き取ることは出来ない。走行メカからこのモーターを取り外して、単独で動作確認を行って見ると回転はするが、その速度はなんとなくよわよわしい。

     モーターの制御電圧を測定してみると3V程度あった。早送りと巻き戻しで制御電圧の極性は反転しており、一見問題なさそうに思われるが、3Vという電圧に奇異を感じる。モーターの定格電圧が何ボルトなのか不明なので、これで正常なのかも知れないが、モータライズのプラモデルのモーターならいざ知らず、中級オーディオのカセットデッキのモーターが3V動作というのは変だ。最低でも5V、8〜10Vぐらいが妥当な電圧ではなかろうか。

     ちなみに、乾電池でモーターに6Vを印加してみるとそれ相応の回転をする。どうやらモーターの定格電圧は5V以上はありそうだ。モーターそのものに問題は無いと思われる。そこでモーターの配線を追いかけて見た。

     電源基板上のトランジスタ回路でモーターの制御電圧が生成されており、そこの電圧を測定して見ると8Vであった。極性反転時には-8Vを示した。ところが、モーターには3Vしか印加されていない。どうやら、制御回路からモーターまでの間に何か原因がありそうだ。

     良く眺めて見ると制御出力からモーターまでの間に1/2Wの抵抗が挿入してあった。電流制限抵抗と思われる。カラーコードを見ると27Ωとある。ちなみにテスターで測定してみると170Ωであった。原因はこれだ。モーターの電流制限用として挿入された抵抗が経年で劣化し、抵抗値が大きく変化したためにモーターへの電圧が不足し、回転不良となったものと思われる。

     手元のジャンク箱に1/2Wの抵抗がなかったので、1/4W 75Ωの抵抗を3本並列にして25Ωにして抵抗を交換した。結果は上々だ。早送り、巻き戻しが回復した。テープが元気良く巻き取られる。

    電源回路部分にモーター制御出力がある R817を25Ω(75Ωの3パラ)に交換 この抵抗が不良。27Ωが170Ωに劣化していた 50KΩのボリュームで回転速度を調整する

     再生開始時点のテープ巻き取りのもたつきは、カセットメカのグリス固化による回転抵抗の増大によるものであった。カセットメカを分解し古いグリスを除去したことにより問題は無くなった。


    ・メンテナンス
    交換した電解コンデンサ
    一般:61個, 無極性:10個
    オーディオ:6個の計77個を交換した

     テープ走行系の修理が完了したので、電源基板、オーディオ基板、サーボモーター制御基板の全ての電解コンデンサを新品に交換した。

     この後、音楽テープを再生して見ると、若干再生音が間延びして聴こえる。サーボモーター制御基板には、モーターの回転速度を調整するボリュームがあるが、メカ部の分解・清掃、コンデンサ交換時にこのボリュームに触れ、速度が少し狂ってしまったようだ。再生音を聴きながら適正な回転になるように再調整をおこなった。

     この後、REC-INに1KHz、-6dbの正弦波信号を入力し、録音・再生のレベル確認を行って見た。出力波形をオシロスコープで見てみたが、大きな歪もなく左右で顕著なレベル差も見つからなかった。アジマス調整などは十分な測定器を持ち合わせていないので行っていない。ヘッド部分をへたに弄くると後が大変だ。


     30年も経っているのに大きな狂いも無く、テープ走行メカに使われているゴムベルトがいまだに健全ということに驚きだ。電解コンデンサは劣化部品だから交換が必要なのは当然として、各部の清掃で機能回復するとは、当時のオーディオ製品の品質の高さに驚くばかりだ。