PIONEER カセットデッキ T-838の修理 2010.3.21

    PIONEERの隠れた銘機T-838。サイドウッドが当時の高級機の証。勿論ジャンク品だ。

     カセットデッキの過去の製品を調べて見ると、ある時期、高級機と呼ばれる機種にはサイドウッドが取り付けられていたことが判る。 どこのメーカーが始めたのか知らないが、他機種との差別化、高級機の証しとして、各メーカーとも、自社の最高峰機には、 サイドウッドを取り付けるようになった。

    3ヘッドでキャリブレーションあり。LEVEL、BIAS、BALANCEと一通りの調整が出来る。 ジャンク品だがヘッドは綺麗だ。

     今回は、そんな機種の中でも、余り知られていない隠れた存在のデッキを入手した。PIONEERの3ヘッドカセットデッキT-838だ。 このデッキの特徴は、 ここに詳しく掲載されている。

     カセットスタビライザーとハニカムシャーシーが特徴のデッキだ。このジャンク品をオークションで入手した。


     オークションの出品説明では、「電源が入らない」ということであったが、電源が入らないということは無く、テープ操作が効かないものであった。 多分ベルト切れなのだろうと想像する。

     早速にカバーを開けて中を見てみる。想像どおりにベルト切れである。朽ちたベルトが3本出てきた。このベルト、ネチャネチャになっているので、うっかり触ると手が真っ黒になる。 ピンセットを使ってシャシー内に落ちているベルトの破片を拾い集めた。ベルト交換の為には分解が必要だ。清掃を兼ねて、すべて分解を行う。


    ケースカバーを開けてメカ部を調べる。 案の定ベルト切れだ。 朽ちたベルトが3本あった。キャプスタン駆動用が2本。メカの制御用に一本。

     シャーシー以外の部分にもハニカムのパターンが刻まれており、その徹底振りには感心する。 しかしシールドケースにまでハニカムパターンを刻んでも果たして効果があるのだろうか。ケースカバーの天板部の後方には放熱孔が設けてあり、そこから湿気が入り込んだのか電源トランス部分には錆らしきものが見える。

     入力部のボリュームは、背面に設けてシールドを施してあり、音質重視の設計がなされてはいるが、シールドを開けて見ると中にあったのは普通の2連のボリュームであった。 回路の電解コンデンサには音響用が贅沢に使われているだけに、デテントボリュームでも中から出てくるかと思ったが、ちょっと意外であった。


    トランス部分には錆らしきものが。BIAS信号発信部はシールドされている。シールドケースにはハニカムパターンが刻まれている。 ドルビー回路には、定番であるSONYのICが採用されている。入力部直近にボリュームを設置している。シールドを開けて見たら中は普通の2連ボリュームであった。 表示部とマイコンのデジタル回路部分はシールドされている。こちらにもハニカムパターンあり。 電解コンデンサは音響用を贅沢に使用している。


    大きな回路基板一枚で構成。銅メッキされたシャーシーが印象的だ。清掃を兼ねて分解した。 シャーシーはハニカム構造。ハニカムが不要な振動を拡散するらしい。 足の部分もハニカム。至る所にハニカムを取り入れ徹底しているのには感心。

     メカ部のベルト交換を行う。メーカーから純正品を手に入れるとなると大変だ。ここはいつもの如くゴムシートから切り出したゴムベルトを代用品として取り付ける。 メカ制御のためのベルトは、手元に丁度サイズの良いものがあったのでそちらで代用した。多分何かのオーディオ機器から取り外したものだ。

     ベルト交換後、動作確認できる所まで組み戻す。電源スィッチを入れるとキャプスタンが予定通りに廻り出した。ところが操作ボタンを押してもその反応が無い。 ディスプレーの表示も点線のバー表示がずっと点滅したままだ。オープン/クローズのボタンを押してもカセット扉が開閉しない。


    ベルト交換の為にメカを取り外す。 全部でモーターは3個ある。 いつものとおり自作ベルトを取り付けた。 メカ制御部(黄色のプーリー)のベルトは、手持ちの適当なものを取り付けた。

     不思議な事にデッキの正面を上に持ち上げた状態にして電源を入れるとうまく動作する時がある。ボタンの反応も良い。巻き戻しや早送りも動作する。所が水平に戻すと暫くしてまた何も反応しなくなる。 ベルト切れ以外の不具合がどこかに潜んでいるようだ。メカを制御している黄色のプーリーを手で廻してみてカセットドアの開閉やヘッドの上げ下げの動作を良く観察して見るが、どこが悪いのか良く判らない。 本体の設置状況によって動作が変わる不具合の起こる原因を色々と考えて見るがさっぱり判らない。

     黄色のプーリーに連動したギヤ部には、マイコンにメカの状態を認識させるためのボリュームのような部品が取り付けてある。ひょっとして、これの接触不良でも起こっているのかも知れないと思い、部品を分解して見た。 この部品はボリュームではなく、複雑な接点を構成するロータリースィッチであった。ドアの開閉状態、ヘッドの上げ下げ状態などが複数の接点のオン・オフの組み合わせで判るようになっているようだ。 この接点の接触する部分を綿棒で綺麗に清掃を行い元に戻してやるとうまく動くようになった。これで修理完了だ。


    ベルト交換だけでは直らなかった。このボリュームのようなものが怪しい。 このボリュームのような部品は、メカ部のカムの現在位置をマイコンが知るために使われている。 分解してみた。ボリュームではなくロータリースィッチであった。 この5接点がスィッチのオンオフの役目をしている。

     さてこのデッキの音だが、なかなかに良い音がする。厚みのある暖かく優しい音と感じた。

     再生動作に問題はない。次に録音に関するテストを行う。まずは、キャリブレーションの動作テストを行ってみる。 LEVELセッティングは良好であったが、BIASセッティングがもう一歩だ。目一杯浅目(ボリュームを左に絞る)にしてやっと指示通りとなる。 キャリブレーション用の内部発振器の出力が経年で低下しているのかもしれない。

     続けてLINE-INにCDプレーヤーの出力を接続し録音テストを行って見る。3ヘッド機なので、ソースとテープのモニター切り替えが可能だ。 ソースの源音とテープの再生音を交互に切り替え、LEVELとBIASの調整を聴感を頼りに合わせ込んでやると問題なく録音できた。