KENWOOD テープデッキ KXF-5002の修理 2009.07.05


    デッキ3台の修理依頼

     近くにお住まいのSさんからの修理依頼。「3台を診て欲しい。もし直るようなら最低2台はなんとかして欲しい。」とのこと。 機種はKENWOODのKXF-5002

     メールで症状を尋ねて見ると、

      デッキA 右走行時左右の音量が不揃いのような気がする。左走行は問題無し。
      デッキB こちらも右走行不良。音揺れがする。左走行は問題無し。
      デッキC 右走行、左走行ともに音が揺れて不安定。
    ということらしい。

     KXF-5002はオートリバースデッキだ。右走行、左走行であっても、磁気ヘッド以降は一つの回路で構成されている。 そこで、デッキA,Bだが、右走行が不良のようだが左走行が問題無いということなので 磁気ヘッド以降の電子回路部分は問題無いということになる。症状からしてテープの走行系の問題だろう。 磁気ヘッドとテープの接触面のずれなどが起こっているのかも知れない。 デッキCの音揺れは、走行モーターの回転不良かもしれない。だとすると修理はちょっと大変だ。

     あれこれと考えても仕方ない。ともかく自分の目で確かめるまではなんとも診断の下しようがない。休日にSさんから 3台のデッキを預かる。ハイキングを予定していたが生憎の天候で中止としたので、早速に3台のデッキの診断と修理を行ってみた。


    デッキCの診断

     まずは、Cデッキの診断。AIWAのXK-S7000にて作成した10KHzの信号を録音したテストテープを再生してみる。 右走行左走行ともに、デッキのレベルメータの表示を見る限り左右の音量差は無い。 チィーという安定した連続音(10KHzは私の耳ではこのように聴こえる)が聴こえる。テストテープでは、特に問題なさそうだ。

     10KHzの単信号の再生では、申告の音揺れは全く感じられない。そこで、楽曲音を録音したテープを再生してみる。 なんとなく音が汚い。10KHz以上の高音で僅かな音揺れや全体にガサつきを感じる。

     早速にケースカバーを開けて中を覗いて見る。キャプスタン軸を一目見て原因が判った。なんと左右のキャプスタン軸に 茶色いペンキを塗ったかのようにテープの磁粉末が固着していた。ピンチローラも勿論汚れていた。これだけの磁粉末が あるということはヘッドも帯磁しているはず。綺麗な再生音が出なくて当たり前だ。

     アルコールを浸した綿棒でキャプスタン軸に固着した磁粉末を拭き取りにかかる。ちょっと撫でたぐらいでは、 簡単には落ちない。根気良く丁寧に磁粉末を取り除いて行く。合わせてピンチローラとヘッドも清掃する。その後、 消磁器でヘッドの消磁を行った後、湿式のクリーニングテープで仕上げを行う。

     ケースカバーを開けて上から見た  正面から見て右側にオーディオ回路を搭載。
     ドルビー回路は定番のICが使われていた。
     走行系のアップ  テープ押さえ金具を取り外す。ヘッドやキャプスタン軸に容易にアクセス出来る

     これだけの事でクリアーな再生音が蘇った。右走行・左走行ともに再生は問題無し。次に録音テストを行ってみる。 このデッキには、オートバイアス機構が備わっており、録音レベルにだけ気を使っていれば綺麗な録音が期待できる。 CDからオートリバースによる左右両面の録音を行ってみたが、その再生音は勿論綺麗であった。 録音したテープをXK-S7000でも再生して見たが特に問題は感じられなかった。 これで、このデッキは、録音・再生ともに問題が無くなったわけだ。


    デッキAの診断

     次にデッキAに取り掛かる。調べて見ると症状・原因ともにデッキCと同じであった。 申告のあった左右の音量不揃いは、再生音が汚く不安定であったことから生じた錯覚なのでは無いかと想像する。 こちらのデッキも走行系のクリーニングとヘッドの消磁を行って修理完了だ。


    デッキBの診断

     デッキBは、申告どおり右走行で完全な音ゆれが発生する。左走行は特に不具合は感じられない。こちらも走行系の不良に間違いはない。 10KHzのテスト信号ではそれが顕著に現れる。チィーという連続音が聴こえるはずが、チュンチュンチュンという音が聴こえてくる。

     ケースカバーを外して良く観察して見ると右走行時、ピンチローラーの押さえ金具がキャプスタン軸に対して波打っている。 これはピンチローラー(ゴムローラ)の不良だ。ローラーは円形であり真円でなければならないのだが、なぜか楕円状に型くずれしているようだ。 これによって、キャプスタン軸とピンローラーの圧力によるテープ巻き取り速度に微妙な変化がおこり音ゆれとなっているのだ。

     ゴムローラーを取り外し、ルーペで拡大して観察して見ると、シャープペンシルの先のようなものを押し当ててゴムの部分に変形を加えたような痕跡が見つかった。 変形部分を整形すべくサンドペーパーで面取りを行ってみたが、高度な工作精度が要求される物だけに完全に音ゆれを無くすことは不可能であった。 低域では全然問題無いレベルであるが高域での音ゆれは避けようが無い。ゴムローラーを交換するしか方法がなさそうだ。

     手元にある10台余りのカセットデッキから流用できそうなゴムローラーを探して見たが不思議と一台毎に微妙に異なっており代替品が見つからない。 そこで、再度ゴムローラーの整形に挑戦してみたが、随分と改善はされたものの押さえ金具はわずかに波打ち現象を起こし完全に音ゆれを取り除くことは 出来なかった。これ以上の改善は無理と諦めることにした。

     うっすらと丸く残る跡が不具合箇所  修理を完了した2台のデッキ(A,C)  最終音出し確認中のデッキB  右走行時の再生音確認。
    左右のレベル差は無いが高域のわずかな音ゆれが取れない。

    デッキの返却

     メーカーにピンチローラーの在庫があれば取り寄せて交換すれば完全な修理となるところだが、預かった3台の内2台は正常になったことから、 事情を伝えSさんにデッキをお返しした。診断してみたら以外と簡単な修理で済んだにも係わらずSさんからは過分な謝礼を頂いてしまい誠に 恐縮であった。