TRIO カセットデッキ KX-4000の修理 2014.12.3


    ■「KX-4000」というデッキ

     見た目は比較的綺麗な
    ジャンクのKX-4000

     月に1度程度、ハードオフに面白い中古品を探しに出かけているのですが、なかなかにコレといったものが見つかりません。 ところが、先日、面白いカセットデッキを見つけました。カセットハーフを斜めに装着するトリオの「KX-4000」です。勿論ジャンクです。

     発売が、1977年ですから既に37年を経過しています。ゴムベルトも朽ちてしまって不動のデッキと思われます。

     斜め装着のデッキは、5年程前に、AIWAの「AD-7600」を修理した経験があります。またもや似たようなデッキを弄くってみたくなり、思わず購入してしまった次第です。

     このデッキの詳細は、「オーディオの足跡」に詳しい解説があります。機能的には大したことのないデッキです。メタル非対応ですし、ドルビーNRもついていません。




    ■ジャンクの「KX-4000」

     さて、ハードオフのジャンクコーナーにあった「KX-4000」ですが、扉は手動で開閉ができて傷もなく綺麗な代物でした。ハードオフのジャンク品の値付けは、最近高くなってきています。数年前なら、不動のジャンクであれば、数百円もしなかったと思いますが、これは、1,000円もしました。それでも並んでいるジャンクの中で一番安い物でした。

     自宅に持ち帰り動作確認を行ってみました。


     全体的には綺麗なジャンク品です。どんな不具合を抱えているのでしょうか?
    バックパネルです。
     LINE-INとLINE-OUT、それに昔のデッキらしくDIN端子が中央にあります。

     通電して見ました。照明ランプが期待に反してちゃんと点灯しました。  操作レバーは汚れていますが問題なく動きました。録音状態にしてみます。  LINE-INから信号を入れてボリュームを回すとVUメーターが正常に振れました。


     このデッキ、不動のジャンクかと思っていたのですが、なんと「早送り」以外の動作は全て動きました。そこでテープを再生してみると非常に音が小さいです。また録音をしてみると、消去は出来ているのですが、録音が全然出来ていません。回路不良があるのでしょうか?

     録音レバーを操作した瞬間、VUメーターが激しく振れます。再生と録音の切り替えスィッチが接触不良を起こしているようです。さらにヘッドフォン端子の右出力からは、パチパチという大きなノイズが出ています。

     およそ40年も前の製品です。当然ですがベルトのヘタリと回路不良が発生しているようです。カバーを開けて中の状態を確認して見ることにしました。


     シャーシーカバーの裏側には、レベル調整の仕方を書いた紙が貼ってありました。  カバーを取り外した中の様子です。  ヘッド部分です。ヘッドの前側を見ることは出来ません。

     左上の隅に電源トランスがあります。手前のベルトはカウンター駆動用です。  3つのベルトが連携してパネル正面のカウンターを動かしています。  リードスィッチを使った回転検出機構です。

     キャプスタン回転用のモーターです。巻き取り、早送りもこのモーターで行っています。  VUメーター部です。照明ランプの電源はAC14Vが供給されていました。白色LEDへの交換も容易です。  メイン基板のシールドシートは経年により反りが出ています。

     下側のカバーを開けてみました。デッキメカと基板です。  メイン基板とLINE-IN,OUTの基板です。  電源回路です。トランジスタによる電圧安定化電源と思います。

     メカの回転機構です。ゴムベルトがヘタッていて早送りの時に空回りします。  メイン基板です。配線が多いです。中央に録音・再生切り替えスィッチがあります。

     カセットハーフを収めるところには、ミラーが付けてあります。ヘッドの先の様子が判るかと思ったのですが曇っていてよく見えません。

     ヘッドの先ですが、なんか緑青のようなものが出ています。ヘッドの表面が汚れで腐食しているみたいです。再生音が小さいことや録音が出来ないのは、これが原因かも知れません。清掃してから再度確認してみます。

     カセットハーフの様子を写すミラーが付けてありますが曇っていて見づらいです。  ヘッドの先に緑青のようなものが出ています。



    ■分解・清掃・修理

     上下カバーに続いて前面のアルミパネルを取り外しました。更にデッキメカを覆っているボックスカバーを取り外します。デッキメカのアイドラーなどはまだ見えません。カセットハーフの押さえを外してやっと回転機構部分が見えるようになりました。

     ここまで分解すると録再ヘッドの様子もよく観察できるようになります。やはりヘッドの表面に緑青のようなものがついています。なにかがヘッドにこびり付いて、それが腐食したような感じです。


     前面のパネルを取り外しました。更に分解を進めます。  デッキメカのボックスカバーの部分を外しました。  更にカセットハーフ押さえを外しました。アイドラーなど、巻き取り機構がよく見えるようになります。

     ヘッド部分がよく見えるようになりました。やはりヘッドの先に緑青がでています。  付着したゴミで腐食したようです。

    ・ゴムベルト

     使われているゴムベルトは全部で4本でした。一本はキャプスタン駆動用のベルト、後3本は前面パネル左にあるテープカウンターの回転用です。3本の内1本目のベルトは、回転検出用にもなっていました。これらのベルトですが、約40年も経過しているというのにまだまだ大丈夫です。ゴムベルトの成分の違いによるものだと思いますが、このデッキのベルトは柔らかくなったりはしていませんでした。

     カウンター用の3本のゴムベルトはプーリーも含めてアルコール清掃をしてそのまま使うことにしました。カウンターの回転だけなら大きなトルクも必要ありませんので十分使えると判断しました。

     流石にキャプスタン駆動用ベルトは駄目です。ヘタッてトルクが必要な早送りなどの場合にはモーターが空回りしてしまいます。こちらのベルトは、いつものようにゴムシートから切り出した手製のベルトに交換しました。

    ・ヘッド

     ヘッド部分については、まずはヘッド用のクリーナーで清掃して見ましたが十分に汚れが落ちません。仕方なく細番手のサンドペーパーで磨いた後コンパウンドで研磨してみました。ハードパーマロイのヘッドですので十分な研磨が出来たかどうか判りませんが、最終的には試聴に十分耐えれるだけのものになりました。

     最初の動作確認で再生音が小さかったり、録音が出来ていなかったのは、このヘッドの汚れが原因でした。テープがヘッドにうまく密着していなかったようです。


    ・ヘッドフォン右出力

     前面パネル右側にヘッドフォン端子があります。ここの右側からはパチパチと大きなノイズが出ています。不思議なことにVUメーターはこれに反応しません。またLINE-OUT出力は異常がありません。LINE-OUT、VUメーター、ヘッドフォンの各回路はそれぞれ独立しているようです。

     ノイズ発生の原因を調べるためにヘッドフォン回路を基板のパターンを追いかけて解析してみました。

     LINE-OUT用のアンプからの出力がVUメーター回路とヘッドフォン回路に入力されています。VUメータはダイオード2個による倍電圧整流回路となっていました。ヘッドフォン回路は、入力を10KΩと1.5KΩの抵抗で分圧してトランジスタによるエミッタフォロワーで出力されていました。

     エミタフォロワーのトランジスタは、2SC536です。このトランジスタが劣化(コレクタとベース,エミッタが断続的に導通する)してパチパチという音を発生していました。ジャンク箱の中にあった2SC1684に交換したら不具合はなくなりました。

     解析したヘッドフォン回路。エミッタフォロワー出力となっていました。  右チャネルのヘッドフォン回路のトランジスタをC536からC1684に交換しました。

    ・録音・再生切り替えスィッチ

     メイン基板の中央には、録音と再生の切り替えスィッチが設けてあります。デッキメカの録音レバーを押し下げるとデッキメカの下側に設置された金属バーが、てこの原理でスィッチを操作します。KD-3やAD-7600でも似たような機構で行われていました。

     切り替えスィッチは、接点部分の清掃のために基板から取り外しました。分解しようと思ったのですが金属のカシメ部分を元に戻せなくなりそうでしたのでそのままでアルコール溶液を接点部分に流し込み、切り替え操作を何度も繰り返して接触不良の解消をしておきました。

     メイン基板から録音・再生切り替えスィッチを取り外しました。  取り外したスィッチです。アルコール溶液を流し込んでスィッチ部分を清掃しました。

    ・各部清掃

     ベルト交換や回路修理と並行して各部の清掃も併せて行いました。特にデッキメカの操作レバーやつまみ類はピカピカに磨き上げました。パネル表面も大きな傷もなく綺麗になりました。

     VUメータは裏側にスポンジが取り付けられていてアルミパネルでシャーシーに押し付けて固定するようになっていましたが、スポンジはボロボロになっていて再利用は出来ません。スポンジの代わりにゴムシートを適当な厚さにしてメーターの裏側に貼り付けました。


    ■修理後の動作確認と試聴

     デッキメカについては、全てうまく動作するようになりました。トルクが要る長時間テープの巻き取り早送りともに問題なく動作するようになりました。

     別のデッキで録音済みのテープを使って再生音を確認しましたが特に不都合は感じられませんでした。このデッキで録音を行い再生してみると、なんとなく高音域で音が荒れているような気がします。

     バックグラウンドミュージックとして小さな音で聞き流す分には全然問題ありませんが、じっくり音楽鑑賞となるとちょっと気になります。手製のゴムベルトですので無視できないワウフラが発生しているのかも知れません。

     そこで、「XK-S7000」で1KHzの信号をテープに録音し、それをこのデッキで再生してみましたら、わずかにワウが感じられます。PCオシロで観測してみるとやはり周波数に揺れが起こっています。

     録音・再生の2段階を踏むことでワウの影響が倍加されて耳に感じる不都合となるようです。ゴムベルトは市販品を調達の上、再度測定をやってみたいと思います。


     修理完了後の上表側です。  修理完了後の下裏側です。メインのゴムベルトは交換しました。  上部、下部のシャーシーカバーはまだ付けていません。操作レバーやボリュームつまみはピカピカになりました。