Victor カセットデッキ KD-3の修理 2009.2.14

    ■「KD-3」というデッキ
    据え置きデッキとしても使えるKD-3

     ビクターのポータブルカセットデッキ「KD-3」を、20年ぶりに再入手した。

     今から30年以上も前のこと、生録に憧れて携帯型のデッキをあれこれと検討した。 当時ナマロクデッキといえば、SONYのデンスケシリーズが人気であったが、値段が折り合わず、 唯一の対抗機であったVictorのナマロク対応デッキから選定することにした。

    精悍な面構えのKD-2

     ビクターのナマロク対応デッキには、「KD-2」と後継の「KD-3」が存在した。「KD-2」は、機動性に優れ、 丸型のVUメータを搭載したそのメカニカルなデザインは、何とも魅力的であった。一方、「KD-3」は、デザインは やや大人しくなるが、据え置き型デッキとしての機能も持ち合わせていて、これもまた魅力的であった。

     その後、「KD-3」の後継機「KD-4」が発売され、更に選択肢が広がったが、価格面から「KD-3」を 選択した。SONYのカセットデンスケは、人気も高く、次から次と後継機が発売されたが、 ビクターのナマロク対応デッキは、この3台限りであったように思う。

     「KD-3」を購入し、実際にナマロクに出掛けたのは、たったの一度切りで、その後は据え置き型デッキとして 随分と活用した。このデッキには、再生アンプとスピーカーが搭載されており、デッキ単体でも十分に楽しめる。 そのため、メインのオーディオシステムを廃棄した後も、長らく使っていたのだが、その後、 趣味がオーディオからマイコンに移るに従い、活用の道も無くなり廃棄してしまった。

     「KD-2」や「KD-4」は時折、ヤフーオークションに出品されることがあるが、「KD-3」は、ここ数年来、出品 されたことが無かった。(はずです。)もう幻のデッキとなるのだろうかと再入手は諦めていたのだが、つい最近 リサイクルショップから出品があり早速に入札した。

     こんなデッキを欲しがる人は他には無く、誰とも競り合うこと無く、無事に落札できた。


    ■ジャンクの動作確認

     さて、届いたKD-3を早速チェックする。外観は、経年による汚れや、ピンプラグなどの金属部分に錆が見られる ものの概して綺麗なものだ。幸いなことに、目立つような大きな傷がない。清掃すれば見違えるようになるはずだ。

     動作確認の前に、操作レバーを操作してみる。グリス固化などによってレバー操作がぎくしゃく するかと思ったが、そんなことは無くスムースであった。イジェクトボタンでカセット蓋も難なく開いた。

     携帯するにはちょっと重い  本体スピーカーにて再生が可能。ただしモノラル。  normalとchromeの切り替えが可能。当時はまだメタルは登場していなかった。ANRSを搭載。  ピン端子が錆びている。DIN端子の存在が古めかしい。  ACとDC12Vと電池の3電源対応  SAヘッドなので磨耗は見られない
     30年来保存しておいた取扱説明書とケーブル  当時は回路図が添付されていた

     30年来保存しておいた取扱説明書と電源ケーブルを納戸から取り出してくる。電源ケーブルを本体にセットする。 このデッキ、電源スィッチなるものが存在しない。プレイーのレバーを押すことによって電源が入る。

     プレイーのレバーを押してみたら、ヘッド部分やピンチローラがスライドし、キャプスタン軸とともにピンチ ローラーが回転した。巻き取りリールも廻っている。再生動作に問題はなさそうだ。

    左のメータの振れが小さい

     テスト用のカセットをセットし、再生動作を確認する。VUメータの振れを見ていると左の出力が随分と小さい。 メータ回路の不具合か、それとも再生不良か、ヘッドフォンを差し込んで再生音を耳で確認する。

     聴感上では、そんなに左chが小さいようには感じられない。そこで、LINE-OUTを別のカセットデッキに接続し、 そちらのレベルメータで出力レベルを確認してみた。すると、別のデッキでも、VUメータの左右のレベル差と 同様のレベル差が見られた。どうやら再生回路に不具合がありそうだ。

     次に、早送りや巻き戻しを確認すると、こちらは全く駄目であった。リールが廻りだそうとするのだが、トルク 不足で停止してしまう。内部のゴムベルトの劣化だろう。


    ■分解と清掃・修理

     裏側ケース蓋を開けて、分解を進める。電池蓋の裏側や所々に貼り付けてあったスポンジは、30年の経過により、 完全に弾性を失いボロボロになっていた。すべて剥ぎ取っておいた。

     電池蓋裏側のスポンジはボロボロだ。  裏側ケースを外す。  紙製の覆いを外す。  メインベルトとカウンターベルトの2本のベルトが使われていた。

     分解して見ると、予想どおりゴムベルトがヘタっていた。コアレスのメインモーターとキャプスタンの フライホィールに跨るベルトが伸びてゆるゆるになっている。こんな状態でも再生動作はなんとか出来ているの だが、早送りや巻き戻しとなるとトルクが要るために全然駄目である。手持ちのゴムベルトから適当なものを探して 交換しておく。

     カウンターを回すゴムベルトもへたっているが、まだ動作に支障はなく手で触った感触では、まだまだ使え そうだったので交換はしないでおく。

     表側ケースを外す。ケース裏にスピーカーがある。  操作パネルを外す。  カセットメカ表側  カセットメカ裏側。メインベルトのみ交換する。

     再生時の左側音量低下の原因を添付回路図をみながら予想してみる。レベルが低いながらも音が出ているので、 電解コンデンサやトランジスタ、ICなどの電子部品は問題ないものとして他の原因を考えてみる。

     2ヘッド機なので、アンプ回路は、再生と録音で兼用となっている。磁気ヘッドから出た再生信号は、まず最初に ヘッドアンプで増幅され、次段のアンプで更に増幅し、ICアンプで電力増幅されて、その出力が、LINE-OUTや、 レベルメーター、ヘッドフォン端子、さらに録音BIAS回路へと接続されている。

     録音時には、ヘッドアンプはマイクからの微小信号増幅アンプとして働き、LINE-INからの録音信号は、次段のアンプ に直接入力され増幅された後、ICアンプで電力増幅されて、録音モニターとしてLINE-OUTやヘッドフォン、レベルメーター へと出力されるとともに、録音BIAS回路に信号注入される。

     再生と録音の動作切り替えには、基板に設けられた7接点のスライドスィッチが使われており、このスィッチの接触 抵抗が大きくなると再生音量や録音レベルの低下に繋がるはずだ。今回の不具合はこれだろう。

     これらのスィッチやボリュームは分解して接点清掃を行いたかったのだが、基板から外すのが大変なので、 隙間からイソプロピルアルコールを流し込み、入り切り操作を何度も繰り返して接点接触不良を解消しておいた。

     プラスティックの外装ケース部分は洗剤を使って洗浄を行い、カセットメカの古いグリスは、拭い取って新しい グリスを塗っておいた。

     ケースに組み込む前に、動作確認を行ってみたところ、再生・録音ならびに早送り、巻き戻しもすべて正常に動作した。 再生レベルの不具合も、スィッチの接点清掃で予想どおりに直ってしまった。

     テープをセットして修理後の動作確認を行う  ANRS基板。TrとICアンプによるディスクリート構成だ。  パネルを元に戻しケースを取り付けて修理完了