YAMAHA カセットデッキ K-1dの修理 2010.05.05

    ■ジャンクのK-1d

    dbx搭載のK-1d

     カセットデッキのノイズリダクションの一種「dbx」を一度体験してみたくて、YAMAHAのK-1dをオークションで入手した。 早送り、巻き戻しが不調で更に再生時テープが回らないという完全なジャンク品。

     シングルキャプスタン、2ヘッドと並みの仕様のデッキのジャンクだけに誰とも競り合うことなく落札した。落札価格は300円。送料が1,100円となんとも悩ましい限り。

     K-1dの詳細については、こちらを見てほしい。 当時の価格で10万円もしたデッキだ。さぞかし良い音がしたのだろう。修理してYAMAHAのナチュラルサウンドを是非聞いてみたい。



    ■動作確認

     届いた「K-1d」を早速に調べてみる。ケースカバーにすり傷が多々見受けられるが、正面のパネル部分に大きな傷は無い。 これなら問題は無い。

     外観をざっと見た後、続けて動作確認を行う。早送りや巻き戻しは、ノロノロとして今にも止まりそうな雰囲気だ。アイドラーゴムのヘタリかもしれない。 再生を試すと全然テープが走行しない。電磁プランジャーによるメカだけにヘッドの上昇やピンチローラーの上下動作は良好だ。

     早速にケースカバーを開ける。デッキメカ部分を観察するとキャプスタンが全然廻っていない。メインのゴムベルトは大丈夫だ。 キャプスタンモーターの電圧をチェックすると+12Vと正常であった。電圧は問題ない。キャプスタンモーターの不良だ。

     dbxを搭載したYAMAHAのK-1d 操作ボックス内にはマニュアルのテープ切り替えスィッチなどを配置 手前の大きなモーターがキャプスタン回転用。これが回転していない。


    ヘッドからのケーブルは基板裏面にハンダ付けしてある。これを先に外す。 取り外したカセットメカ メカの裏側。中央がリールモータ。振り子式のアイドラだ。

     キャプスタンモーターの詳細調査ならびに早送り、巻き戻し用のアイドラー調整のためデッキメカを本体から取り外す。 リールモーターを調べて見たら問題は無かった。 アイドラーゴムをサンドペーパーで少し擦って摩擦力を回復させておいた。綿棒とアルコールでメカの汚れを落としておく。


    カセット蓋を外す。この先分解を進め清掃を行う。 キャプスタンモーターを外す。 モーターを分解。速度制御回路が内臓されている。



    ■キャプスタンモーターの修理

     キャプスタンモーターは、速度制御回路が中に組み込まれたタイプだ。モーターをメカ部から取り外して分解してみる。 制御回路基板を眺めて見るとICの足の部分が黒く焼けている。モーターのコイルを調べて見ると断線はしていない。+12Vをモーターに 直接印加したら勢い良く回転した。モーター自体は問題ないようだ。ちょっと安心する。

     故障箇所は速度制御回路にある。IC以外の部品を順にテスターで動通確認をすると問題はなかった。不良箇所はICのようだ。 このIC、型番がAN6610とある。 ネットで調べて見ると松下製のモーターコントロール用ICであった。古いICだけに入手は難しいと思われるが、念のため購入可能かどうか ネットの部品ショップへ見積もりを依頼しておいた。依頼の回答が来るまでの間、代替の速度制御回路を自作して見る。

     デッキ本体から供給される+12Vは、定電圧化されていず時間とともに若干上昇する。そこで7809を通して9Vの定電圧電源を 作り、トランジスタのエミッタフォロアーでモーターをコントロールすることにした。9Vを抵抗で分圧した電圧をトランジスタの ベースに加えてやればエミッタ出力は一定となりモーターの速度は一定となるはず。分圧抵抗の一方にボリュームを使って電圧を微調整する ことによりテープの速度を規定の速度に設定することが出来る。


    モーターから回路基板を取り外して点検する。ICの足の部分が熱で焼けている。その他の部品は問題なさそうだ。 このICが壊れていてモーターに通電されなくなっていた。 3端子レギュレーターとトランジスタによる制御回路を自作して取り付けた。


    ボリュームで規定の回転速度に合わせる。動作テストは良好だ。レギュレータの発熱も微々たるものだ。 テープ走行速度をより安定にするために、K-5500の速度制御回路を流用する。 独立したdbx基板。エンコード回路とデコード回路が共通となっている。DE,EN端子で機能を切り替えている。

     この自作回路で一応問題なく動作するようになったが、デッキ内部の温度が上昇すると若干の速度変動が起きる。モーター自身か、 制御回路の部品のいずれかの温度変動の影響だろう。温度変化に対する対策が必要だがどのような回路を組めば良いのかもう 一つ知識不足で良い回路が思いつかない。

     連休の合間にハードオフに立ち寄って見たところ、YAMAHAのカセットデッキK-5500のジャンクが300円で展示してあった。 K-1dとは製造年が異なるので同じモーターを使っているとは思われないが、 モーターの速度制御回路はうまくすると流用できるかもしれないと思い部品取りを兼ねてK-5500を購入する。

     K-5500のキャプスタンモーターは予想通りにK-1dとは異なっていたが、速度制御回路がK-1dと同じように内部に組み込まれたものであった。 こちらのモーター電源は+15Vであったが、速度制御回路は流用できる可能性が高い。早速に、K-5500のモーターを分解し、取り外した 速度制御回路を自作の制御回路と交換した。仕様電圧が違っていたが、幸いなことに制御回路のボリュームを調整すると うまく規定の速度に合わすことが出来た。これでモーターの回転は安定するようになった。

     さて、本来の目的であったK-1dの音質だが、まずは念願の「dbx」の動作を確認して見た。dbxオンで録音したものをdbxオフで 聴いて見ると厚みもなく広がりのない薄っぺらなシャリシャリとした音がするが、この状態でdbxオンにすると一瞬にして音が厚く広がる。 この変化には驚いた。dbxの対数圧縮・伸張の効果にちょっと感動した。

     「dbx」以外に関しては、「これがナチュラルサウンドか」と感動を呼ぶようなものは何もなかった。このデッキの作られた 当時の他のデッキと同様、明るくやや賑やかな音と感じた。

     K-1dは、K-1aにdbxを付加したものであるから、dbx専用基板が搭載されている。この基板は独立しているから取り外して「dbx」 のコンパンダー・エキスパンダー装置を作って見るのも面白いかも知れない。