AKAI カセットデッキ GX-73 の修理 2009.1.25

     かつてのカセットデッキメーカーAKAIの「GX-73」(1986年発売)をヤフオクで入手した。もちろんジャンク品。 出品時の案内は次のとおり。

       ・テープポジションの表示がチラつく。(テープの検知がうまくできていない。)
       ・録音レベルのL側入力が不良。(R側と比べて,入力レベルが低い。再生はOK)

     なんとか修理して、かつてのAKAIサウンドをこの耳で確認して見たい。


    ■外観チェックと動作確認

     商品が到着し、早速にチェックを開始する。大きな傷や擦り傷もほとんど無くつまみ類に若干の埃があるものの 外観の程度は良好だ。清掃すれば、良品になる。ただし、煙草のヤニの匂いがぷんぷんする。これにはまいった。 どうかすると頭が痛くなってくる。不具合修理の前に、徹底した分解清掃が必要だ。

     次に動作確認を行う。ボタン類の操作は問題なさそうだ。ディスプレィーにボタン操作の結果が正しく表示される。 カセットリッドのオープン・クローズも問題ない。キャプスタンを見てみるとちゃんと回転している。メインベルト は問題ないということだ。GXヘッドもピカピカだ。

    背面は普通だ。特徴は無い
    GXヘッドが輝いている
    操作部分
    MPX-FILTERのボタンの隣にdbxのボタンが付くとGX-93になる

     カセットテープの代わりにクリーニングテープをセットした。テープ表示がNORMALになるべき所、METALの表示が チラついている。出品案内のとおりだ。これは、テープセレクタの接点清掃で簡単に直る。特に問題ではない。

     早送り、巻き戻しのボタンを押すと中でモーターの動作音はするが、テープが巻き取られることはなかった。 次に再生ボタンを押すと、ピンチローラーがせり上がりテープは読み取られていくのだが、テープの巻き取りができず、 キャプスタン軸付近にテープがワカメ状態となって巻きついてしまった。

     このデッキ、キャプスタンはダイレクトドライブで回転させているが、巻き取り機構は、振り子のアイドラー ホィールで行っている。アイドラーホィールのゴムが劣化して滑ってしまい、テープ巻取りが出来なくなっているようだ。 カセットメカがこのような状態では、録音・再生確認は不可能だ。メカ修理の後で確認することにする。

    L側のレベルが上がらない

     出品案内にあった録音レベルのL側入力不良を確認してみる。背面のLINE-INにアンプのREC-OUTを接続し、FM放送を 録音出来る状態にセットした。モニターをSOURCE側に切り替える。録音ボリュームを右に廻して行くと、ディスプレー のレベル表示が序々に大きくなって行くが、大きくなるのはR側だけで、L側は小さいままだ。 ヘッドフォンで聴いて見るとやはりL側の音が小さい。聴こえないのではなくレベルが大きく下がっている。

     SOURCEをモニターして音が小さいということは、録音ヘッドの不良ではない。LINE-INから録音アンプまでの 回路に不具合がありそうだ。回路を順に追いかければどこが不良か判るだろうと楽観する。


    ■分解と洗浄・清掃

     動作状態の確認が取れたのでケースカバーを開けにかかる。カバーを開けると煙草のヤニの匂いがむっと鼻につく。 基板類全体がうっすらと茶色くヤニで染まっている。埃だけならブラシで清掃すれば済むのだが、ヤニとなると洗剤に よる洗浄が必要だ。

    ケースカバーを外した
    2枚の基板とカセットメカ
    上側の基板
    マイコンが搭載されたデジタル回路系
    下側の基板
    電源とアナログ回路系
    カセットメカ
    3ヘッド、ダイレクトドライブ

     分解・清掃後の組立時に困らないよう、分解前の配線状況やコネクタ付近をデジカメで撮影をしておく。この後、 ネジを外す毎に、ネジとそのネジが取り付いていた場所をデジカメに収めておく。

     最近の新しいミニコンポなどでは、コストダウンが徹底され、ネジの種類も一種類か2種類程度であるが、 このデッキ、20数年前のバブル期のものだけに多種のネジが使われている。組立時に、ここはどのネジだったかと 戸惑ってしまわないための事前の策だ。

    前面の化粧パネルを取り外す
    上側基板はディスプレーパネルと一体のようだ
    ディスプレーパネル、カセットメカを取り外す
    取り外したメカユニット

     先日修理したDENONのデッキは、シャシーがプラ製でなんともチャチではあったが、こちらは、金属シャシーで 基板の固定部分や前面操作パネルの固定部分にも金属パーツが豊富に使われており、背面部分の鉄板もシャシー にネジ止め構造となっていた。この当時としては贅沢な造りに思われる。

    基板もシャシーから取り外す
    下側基板にあったドルビーIC
    日立の「HA12090NT」が録音・再生別に2個

     煙草のヤニの匂いに閉口しながら、順にパーツを取り外し、シャシーなどの筐体部分は、中性洗剤で洗浄する。 基板部分は、アルコール系の基板洗浄剤をスプレーしてヤニと汚れを洗い流した。


    ■録音時L側レベル低下不具合の調査と修理

     ここまで作業を進めると基板の裏側をひっくり返して見れるようになる。録音時のL側レベル低下の 不具合調査の事前調査として、LINE-INからの配線パターンを調べてみることにした。

     LINE-INからの入力信号は、固定抵抗による分圧回路を通った後、左右のレベルバランスを調整する ボリュームに入力され、バランス調整用ボリュームを通過した後に、録音レベル調整用のマスターボリュームに 接続されていた。

     マスターボリュームを通過した後は、録音用のICアンプの入力にダイレクトに接続されていた。ここまでの回路 を見る限り、録音入力は、DC直結回路となっている。

     さて、ここまでの回路で、奇異な現象を発見した。バランスボリューム、マスターボリュームとも50KΩの仕様。 マスターボリュームの左右の抵抗値をテスターで測定してみた所、右側は、17KΩ、左側は、43KΩを示した。

     入力の分圧用固定抵抗ならびにマスターボリュームとバランスボリュームは、繋がっているので、それぞれの抵抗 が、並列接続となり、マスターとバランスの2並列でも25KΩなので、それ以下になるはずである。つまり、 右側の抵抗値が正しくて、左側の値がおかしいことになる。

     バランスボリュームかマスターボリュームのどちらかが不良の可能性がある。そこで、バランス、マスターの各 ボリュームを基板から取り外して、ボリューム単体で不具合がないか確認をしてみた。結果は、バランスボリュームの 左側で不具合を発見した。ボリュームの可変出力がオープンに近い状態になっていた。

    LINE-IN 回路図
    @Bの間の抵抗を測定
    バランス用ボリュームが不良

     ボリューム内部の摺動部の可動接点が接触不良を起こしているようだ。接点復活剤を隙間から流し込んで、 グリグリして見たが、一向に回復しない。そこで、ボリュームを分解し、接点部分をアルコールで清掃し、カーボン 抵抗膜も表面を清掃してやったら、機能回復した。L側録音レベル低下はこれが原因だったと思われる。

     組立後の試聴確認までは、L側レベル低下がこの処置で直ったか断定できないが、多分間違いない所だろう。残りの ボリュームについても、念のため動作確認を行うとともに接点復活剤を流し込んでおいた。


    ■カセットメカの分解と調整

     シャシーの洗浄や基板類の清掃、ならびにボリュームの補修が終わったので、カセットメカの分解・清掃に着手 した。

     初めて触るメカは、分解後の組立に困らないように、事前に良く観察し、慎重に分解を進める。

    カセットメカを全方向から眺める
    正面
    後面
    上面
    下面
    右側面
    左側面

     今回は、一つ部品を外す毎に清掃を行い、作業を進めた。分解した部品は、アルコールを浸した綿棒やティッシュペーパーで 汚れやグリスの油分を拭い取って行く。特に固化したグリスは徹底的に取り去っておいた。

     カセットドアを固定する側板を外した  化粧パネルを外す  テープ巻取りリールを外して清掃する

     巻き取りリールを取り外そうとして気が付いた。このメカには、回転センサーが巻き取り側と送り側、 それぞれに1個、合計2個あった。テープの巻き取りの停止を検出だけならば、どちらかに1個あれば良い。今までに 分解したVictorやSONY、DENONのどのデッキでも1個であった。古い機種では、機械式カウンターにセンサーが 取り付けてあった。

     添付されてきた取扱説明書を読むと、このデッキでは装着されたテープの長さを自動で検出するとあったが、そのため に2個付いているのかも知れない。巻き取り側、送り側のリールの回転速度差でテープの長さを判定でもするのだろうか?


     巻き取りリールの次はアイドラーホィール。
     このメカには、回転センサーが巻き取り側と送り側の2個あった。テープ長自動検出のためかもしれない。
     アイドラーホィールを外した。ゴム部分はつるつるだ。  アイドラーと回転センサーを取り外した後

     メカ制御用のモーターとベルト、プーリー  メカ制御機構を外して清掃する。プーリーは経年で変色している。  この次はキャプスタンの清掃。
     テープセレクタや巻取りモーターも外してしまった。
     キャプスタンの清掃のためにダイレクトドライブ基板を外す

     なお、アジマス調整が必要となるヘッド周りの分解は止めておいた。グリスや汚れを取るだけにしておいた。

     カセットメカの不具合修理のポイントは2つ。テープセレクタの接点接触不良の解消と、テープ巻取りのアイドラー ホィールの補修だ。

     テープセレクタの接点を、アルコールを浸したペーパーで前後に擦って磨いておいた。これで、接触不良は解消する。

     アイドラーホィールのゴムパーツは、長年の使用で磨耗しつるつるになっていた。 400番の耐水ペーパーの上でホィールを前後に転がしてやると、 ゴムの部分が適度に擦れて、摩擦係数が高くなり、程良い状態になった。

     アルコールを浸したペーパーで接点を磨く  アイドラーはサンドペーパーの上を転がすと程良くなる

     分解したカセットメカを元通りに組立、基板類もシャシーに元通りに組み戻して行く。煙草のヤニの匂いも取れ、 新品同様の見違える姿になった。この後、試聴テストを行う。


    ■試聴と機能確認

     カースカバーは開けたままで動作確認を行う。なぜかカセットリッドがきちんと閉まらない。よく調べてみたら、 リッド開閉機構の上下動するバーの位置合わせがうまく出来ていなかった。修正して再度確認、リッドの開閉が良好になった。

     まずは、テープセレクタの反応を確かめて見る。NORMAL、CrO2、METAL の各テープを順にセットして、ディスプレー 表示を確認する。正しくテープの種類を表示した。表示は、チラつきも無く安定している。

     次にテープの巻き取りを確認する。再生、早送り、巻き取り、どれもスムーズだ。アイドラーホィールと巻き取り プーリーの滑りは見られない。回転トルクを必要とするC-90テープでテストしてみたが、特に不具合なく動作した。

     LINE-INにアンプのREC-OUTを接続し、FM放送を録音出来る状態にする。FMはモノラル受信にしておく。 MONITORをSOURCEに切り替えて、録音ボリュームを、右に廻して行く。 ディスプレーのレベルメーターには、左右のレベルが同じレベルで表示されていく。録音時L側レベル低下の原因は、 やはりボリューム不良であった。

     この後、MONITORをTAPEに切り替えて、録音を開始する。ヘッドフォンで聴きながら、ドルビーNRのオン・オフ時の 出力レベルの変化、NRの効果を確認する。3ヘッド機なので、録音の結果は直ちに判る。ここまで、動作に関しては 特に問題は無い。

     音源をFM放送からCDに切り替え、CDからの録音を行って見た。このデッキ、低域が少し強く出るようだ。高域は、 そこそこの再生だ。再生帯域に不足を感じることは無いが、透き通るような高域を期待するとがっかりする。 中域は良く出ていて、全体的にやや厚めの明るく元気な音と感じた。

     薄型デザインが、精悍な中にも上品さを醸し出しており、手放すにはおしいデッキだ。