■DENONのカセットデッキ3台
ヤフーオークションに、DENON のカセットデッキ3台が、送料込み1,000円で出品された。もちろんジャンク品だ。
出品案内には、型番の表示も無く、写真も不鮮明で、一体どんなデッキなのか皆目不明。ネットでググッてみるも、
DENONのデッキは不人気なのかこれといった情報が無い。オーディオの老舗のDENONだが、カセットの出来は今一つ
ということか。
とはいえ、こちらとしてはジャンク修理が楽しめれば良い訳でデッキの出来は二の次だ。1,000円で3台の
ジャンクが入手出来れば、こんな楽しいことは無い。結果は、100円高い1,100円で落札した。
3台のデッキが届く。見るからに擦り傷だらけ、埃まみれのデッキだが、問題ではない。
型番をみると、DR-M15HX, DR-M25HX, DR-M27HX とパネルに書いてあった。いずれもリバースデッキではなく
ワンウェイーデッキだ。
型番にHXが付いているように、3台ともドルビーB,Cノイズリダクションと更にHX-PROを搭載している。
調べて見るとM15HX は、2ヘッド、シングルキャプスタンだったが、うれしいことに M25HX,M27HX は3ヘッド、
デュアルキャプスタンだった。
この上、キャプスタンの回転にダイレクトドライブモーターでも搭載されていたら言うことなしだったが、
残念なことにすべてベルトドライブ方式であった。
M25HX・M27HXは、3ヘッド機なので録音時のSOURCE/TAPEのモニター切替が付いている。
録音キャリブレーション機能として、
M25HXは、BIASとBALANCEの調整が備わっており、M27HXは、さらにLEVELの微調整が備わっていた。
3台ともシャシーは、コストダウンのために強化プラスティックで構成されており、
なんとも軽いデッキであるのだが、M27HXだけは、他の2台よりも随分と重い。
良く調べてみたら、M27HXは、底面に鉄板が張り付けてあった。また脚も大きなインシュレーターとなっている。
ケースカバーの裏側にも鉄板が貼り付けてあった。
どうやらM27HXは、他の2台よりも差別化された高価格機であったようだ。
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正 面 |
背 面 |
内 部 |
カセットメカ |
DR−M15HX |
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DR−M25HX |
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DR−M27HX |
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正面デザインは、似たり寄ったり。背面に至っては、全く同じ。強化プラスティックのシャシーが情けない。
M27HXだけは、立派なインシュレーターがついている。さらにM27HXは、底に鉄板が貼り付けてあった。効果の程は?
M15HXは2ヘッド機だが、BIASとBALANCEの録音微調整が可能となっている。テープを巻き戻しての調整効果の確認は面倒だ。
M25HXは3ヘッド機なのでMONITOR切替がある。録音微調整は、M15HXと同じBIASとBALANCEだ。MONITOR切替で効果確認は容易だ。
M27HXは、更にLEVELの微調整が可能。テープ毎にMONITOR切替時の音量合わせが可能となっている。
内部は、3台とも電源基板とメイン基板の2枚構成。
カセットメカは、全く同じでは無い。3台ともベルトドライブだ。
ダブルキャプスタンのM25HXとM27HXは同じメカが使われているかと思ったが微妙に異なっていた。
■分解と清掃・修理・調整
オークション出品案内では、「電源が入らない、再生をしない等、症状は様々です。」とあったが、
ヘッドフォンを繋いで、動作確認をして見ると、3台とも問題なく再生した。
巻き戻しや早送りは、できるもののなんとなく巻き取りに元気が無い。メカ機構の調整修理が必要だ。
カバーを外してざっと確認して見ると、キャプスタンを廻すゴムベルトは3台とも問題なし。
ゴムベルトは、他に使われている所は無い。巻き戻しや早送りは振り子式のアイドラーを使ったモーター駆動である。
3台とも分解して、中性洗剤で洗浄を行う。カセットメカは分解して、古いグリスを拭い取り、
新しいグリスを塗り付けておいた。
ピンチローラーやヘッド部分はアルコールを浸した綿棒でしっかりと磁粉末や油汚れを拭い取った。
M15HXのアイドラー部分はギヤ機構であるが、M25HX・M27HXでは、
サイレントメカを実現するためにゴムパーツが使われている。
このゴム部分が、長年の使用で削り取られてつるつるになり、回転トルクの不足を招いていた。
400番のサンドペーパーで軽く擦っておいた。
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M15HXのテープ巻き取り機構はギヤを使用 |
M27HXのアイドラーゴムパーツが劣化してつるつる状態 |
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黒い棒のようなものがダンパー |
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カセットドアの開閉機構には、3台とも同じエアーダンパーが使われていた。
M15HXでは、ダンパー機構に問題は無かったが、M25HXでは、制動が全く効かず、カセットホルダーが勢い良く飛び出してしまう。
M27HXでも、若干の制動不足が感じられた。
ダンパーを分解して調べて見ると、ダンパーのピストン部分にカセットメカのグリスが入り込んでいるのが
制動不良の原因であった。綿棒でグリスを拭き取ってやると、元通りの制動を示すようになった。
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M15HXを分解してメイン基板を眺めていたら、左奥にある大きな電解コンデンサがぐらついているのを発見。基板裏側を
見ると完全に片足が半田クラックを起こしていた。早速に半田修正を行っておく。
M15HXの動作確認のためにカセットホルダーにカセットを挿入したところ、どうにも収まりが悪い。
よく見てみるとカセットハーフを支える右側の爪が折れてしまっていた。
組立前に、プラモデルのジャンクパーツを加工して補修を行っておいた。
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このコンデンサがぐらついていた。 |
基板裏側を見ると半田割れが発生。 |
カセットホルダーの右側の爪が破損していた。 |
プラモデルのジャンクパーツで補修する。 |
分解・清掃を終え、M15HXの動作確認をきちんとやり直すべく、いつも使っているオーディオシステムに接続する。
メインアンプのボリュームは絞り、デッキの録音ボリュームとヘッドフォンのボリュームも絞った状態にして、
システムの電源を投入。録音済みのカセットテープをセットして再生を行う。
レベルメータに左右の再生レベルが表示される。ここで、アンプのボリュームを上げて行くが音が出ない。デッキの
LINE-OUT出力の不良かと一瞬疑ったが、デッキのヘッドフォンボリュームを上げて行くと音が出た。このデッキでは、
ヘッドフォン用の出力ボリュームとLINE-OUTの出力ボリュームが兼用となっているようだ。これは使いにくい。
やはり別々に出力調整できないと不便だ。というよりも、
LINE-OUTは、可変できなくても十分だ。
これについては、3台とも同じ造りであった。DENONの仕様なのだろう。諦めるのも癪なので、
改造出来ないものかと出力回路を追いかけて見た。
ヘッドフォン用アンプには、三菱のOPアンプIC「M5218」
が使われており、このOPアンプ回路の入力ボリュームの出力(アンプ入力)から、470Ωの抵抗を通じて
LINE-OUTに信号が出力されていた。
3台のデッキの内、一番高くて、今後暫くは、使い続けそうなM27HXについて、この解析を元に改造を行うことにした。
改造は簡単なことで、OPアンプ回路の入力ボリュームの入力側からLINE-OUTへ出力するようにパターン変更するだけだ。
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ヘッドフォンアンプ付近 |
LINE-OUTを赤線のように配線変更した |
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■試 聴
さて、動作確認と試聴の結果だが、M15HXは、ワウフラが目立つ。ゴムベルトを交換した方が良いかも知れない。
M25HX・M27HXは、ダブルキャプスタンの効果だろうか、ワウフラはほとんど感じない。テープ速度については問題無い。
音質は3台とも似たり寄ったり、決して他のメーカのデッキに負けるような音ではない。流石にオーディオの老舗デノン
の製品だ。3台の内、強いていえばM27HXが一番良いように感じる。
M27HXでの録音は、テープキャリブレーションにレベルの微調整があり便利だ。SOUCEとTAPEのモニター切替で、
再生音にレベル差があると音質変化の聞き比べがやり難い。最初に、レベルの微調整で、
SOURCE側の音量とTAPEの再生音量を合わせておくと、その後のBIAS微調整やドルビーNRの効果が確認し易い。
BIASはマイナス方向で高音がやや強調され、プラス方向で高音が弱くなる。JPOPなどボーカル中心の
中低域重視ならBIASはプラス方向にセットするのが良いようだが、いずれの方向も歪は増す方向なのでほどほどが肝心。
3台のデッキといえどもシリーズ機で造りが似たようなものだから、最初の1台の修理には時間がかかったが、
後の2台は手馴れたものであっという間に終わってしまった。
■3デッキの主要IC比較