DENON MD/CDミニコンポ D-MS3の修理 2008.5.25

    ■D-MS3入手の経緯

     このD-MS3、当方のホームページ読者から無償で譲って頂いた物だ。その経緯は、次の とおり。


     DENONの一体型MD/CDミニコンポをまだ手にしたことが無く、一度は入手して見たいと思い、 ヤフーオークションで適当なジャンク品を見つけては入札するのだが、いつも高値更新されて落札 出来ない。

     「電源が入らない」「MD・CDの再生不可」「MDの録音も不可」なんてジャンクがなぜか高値で 取引されてしまう。当方と同様にジャンク修理を趣味とする人が増えたということか。

     いつものように、DENONのミニコンポのジャンク品を探していたら、「電源が入りません」「スピーカー 端子が壊れています」というD-MS3本体のみの出品を発見。「電源が入らない」なんていう症状は、 修理する者にとっては嬉しい題材だ。

     「CDが使えません」というONKYOのミニコンポのジャンク品は、ほとんどがベルトの交換とレンズの 清掃で直ってしまう。ベルト交換はジャンク修理の定番みたいなものだから、修理の題材としては、面白く無い。

     それに比べて電源が入らないというのは、ヒューズ切れならいとも簡単に直ってしまうが、そうで 無い場合には、回路解析も必要となり時間も掛かる。暫くは、楽しい時間が過ごせるはずだ。 修理出来なくても原因究明出来れば本望だ。

     今回もまた高値更新されるだろうと半ば諦めつつ入札する。この商品だけでなく他にも幾つか 入札をしておく。オークション終了は全て1〜2日先だ。

     その後、オークション入札の事は忘れて、以前に入手しておいた8ミリビデオカメラの修理に没頭する。 深夜、PCを立ち上げて見ると、ヤフーから落札通知のメールが届いている。はて、何を落札したのか、 終了日が今日のオークションはなかったはずだがとメールを見る。なんと、D-MS3のジャンクが落札出来ている。 出品者からも取引ナビで連絡が届いている。


     出品者の方を仮に森本さんとしておこう。森本さんは以前からこの諏訪工房のジャンク修理のページを 読んでくださっており、ご自分でも修理を楽しんでおられるとのこと。

     森本さんの出品したこのD-MS3に、当方が入札したことをヤフーIDからお知りになり、 このジャンク品をぜひ諏訪工房に修理させてあげたいと、早期終了により落札させてくださったのだ。 さらに、商品代不要、無償で譲って下さるというのだ。送料はお支払いするとしても、願ったり叶ったりの 提案に、断る理由も無く、喜んでお受けする。

     このコンポ、森本さんがハードオフで購入し、故障修理に挑戦されたのだが、どうにも原因特定できずに、 手放すことにされたといういわく付きの物。無償で頂いた物だけに、なんとか修理してその経過報告を しなければと、プレッシャーを感じつつ、修理に取り掛かった次第。


    ■D-MS3の不具合原因の調査

    ・症状の確認

     送られたきたD-MS3の不具合状況を確認する。今回、外観云々の話は無しにしておくが、総じて 綺麗な商品である。

    スピーカー端子
    が壊れている

     裏面のスピーカー接続端子を確認する。ケーブルを留めるプラスティック部品が完全に壊れている。 これは、新しい部品と交換するしかない。見栄えは悪くなるがケーブルを直結しても事足りる。 転売でもするなら部品交換が必要だが、このまま自分で使うなら、ケーブル直結でも特に問題ではなかろう。

     電源プラグをコンセントに差し込み、電源ボタンを押して見る。電源ボタンのLEDが緑に点灯し、 ディスプレィに「CD-R」と入力ソースの表示が出たが、直ぐに電源が落ちてしまう。電源ボタンのLEDは、 緑から赤に変り点滅している。この状態でもう一度電源ボタンを押して見ると、同じ症状を示す。

     試しに、電源ボタンを押すと同時にFM/AMの選択ボタンを押して見ると、ディスプレィ表示が 「TUNER」に変わるが、直ぐに電源が落ちる。電源ボタンと同時にボリュームを廻して見たら ディスプレィにはボリュームの値の変化が表示された。

     電源ボタンを押したほんのわずかな時間、0.5秒も無い、は正常に動作しているようだ。 LEDが赤色で点滅しており、再度の電源ボタン操作にも反応するのでマイコン自体は正常に動作しているようだ。

     CDやMDのイジェクトボタンを押して見たが、こちらは、先に電源が落ちてしまうので動作不明だ。 これ以上の動作確認は何も出来ない。

     ここまでの確認から、不具合メカニズムを大雑把に推測して見る。


    •  電源プラグをコンセントに差し込んだ時点で、スタンバイ回路の電源が活性化し、マイコンが動き出す。 その後、マイコンは、操作パネルのボタンが押されたかどうかをずっと監視する。

    •  電源ボタンが押されたことを検出すると、LEDを緑に点灯し、何らかの仕組みにより、メイン回路の 電源を活性化し、各回路に電源を供給する。これにより、ディスプレィに表示が出る。

    •  この後、すぐにマイコンは何らかの異常を検出し、回路の動作を停止し、メイン回路の電源を落としてしまう。 そして、電源ボタンのLEDを赤色点滅してその異常を知らせる。

     この推測に従い、異常がどこにあるのか、各ユニットを切り離して、切り分け確認をして見ようと思う。


    ・分 解

     早速、コンポのカバーを開けて見る。同じサイズのONKYOのミニコンポと比べて頑丈な作りのような気がする。 正面から見て、右側にメイン基板が一枚、中央から左に、CDユニット、その上にMDユニットがある。後方には、 電源基板とアンプ基板が一体となって納まっている。後方左側には空冷ファンの付いたヒートシンクがある。

     ヒートシンクには、トランジスタが6個張り付いていた。アンプ回路を構成するトランジスタかと思い よく見てみると、それは、定電圧電源用の3端子レギュレータICであった。

     メイン基板と電源基板の間には、隠れるようにチューナーユニットが納めてある。 チューナーユニットは、以前に入手したDENONのアンプDRA-F101UD-M30に使われているものと同じ物のようだ。
      後日調査したら、形状は似ているが違うものであった。D-MS3のチューナーユニットは、KWANGSUNG ELECTRONIC KOREA(韓国のメーカー)製のもので、DRA-F101のユニットは、日本のミツミ製だ。

     要のアンプだが、ONKYOのFRシリーズはディスクリート部品で構成されていたが、こちらは、SANYOのハイブリッドIC、STK402-030が使われていた。UD-M30も同様のハイブリッドICであった。 DENONは、このクラスのアンプには、ICアンプを使うという方針なのかも知れない。

     カバーを空けた段階で、MDユニットからのフラットケーブル一本、CDユニットからメイン基板と電源基板に繋がる2本のケーブルを外して動作確認を行って見る。症状は変わらずに、やはり電源投入直後に電源が落ちる。

     次にメイン基板側から電源基板に繋がるケーブル1本、電源基板側からメイン基板に繋がるケーブル2本の計3本のケーブルを外して見る。

     電源ボタンを押しても反応無し。ケーブルを外したためにスタンバイ電源がメイン基板のマイコンに供給されないので何も動作しない。そこでメイン基板側からのケーブル一本を繋ぎ直して見る。電源ボタンを押すと、電源は入るが症状は変らない。

     アンプ基板と電源基板は合体構成となっているため、これ以上の調査をするには、全てバラす必要がある。基板を締め付けているネジを緩めて完全に分解する。合体したアンプ基板と電源基板も分解する。大きな電源トランスもシャーシーから取り外す。


    D-MS3分解の様子


    ケースカバーを外す
    次にこの操作パネルを外しにかかる
    操作パネルを外してみると、MDユニットがCDユニットの上に、右側にメイン基板が組み込んであった
    バックパネルを外しにかかる。
    出っ張りから取り掛かる

    出っ張りの部分を外すとトランスが見える
    バックパネルを外してみた。
    アンプ基板と電源基板、メイン基板、チューナーユニットが見える
    メイン基板の取り外しを行う
    3本のビスを緩め、ケーブルを外すとメイン基板は簡単に外れる

    取り外したチューナーユニット。
    フラットケーブル1本でメイン基板と繋がっていた
    一体となった電源基板とアンプ基板。これを外す
    電源基板の下に大型のトランスがあった。これも外してしまう。
    電源トランスを外した。次はMD/CDユニットだ。

    MDユニットを載せた台を先に外す
    こんな感じでMDユニットが外れる。
    CDユニットの制御基板、下部にCDユニットがある
    綺麗に物が無くなったシャシー。
    残っているのは足ぐらいか

    操作パネルの裏面側。ヘッドフォンジャックとUSBジャックが納めてある
    外してよく見ると水晶が載っていた。
    小さな基板の裏側には、TIのUSBオーディオ用チップPCM2702が搭載されていた。
    たったこれだけでUSBオーディオの回路が出来上がってしまっている
    ヒートシンクに留めたIC群。アンプの石かと思ったら電源用ICだった。

    大型の電源トランス
    アンプ基板を分離した電源基板。
    基板の上にも小さなトランスがあった。リレーも見える。
    ヒートシンクに取り付けられた温度センサー。FANを制御している?
    電源基板と分離したアンプ基板。
    アンプはハイブリッドICで構成。トランジスタは異常検出回路

     ここまでの調査で電源基板を疑う。電源基板の上では、アナログ、デジタル、モーター駆動、信号回路用とたくさんの種類の電源が作られている。これらの内どれかが出力不良となっていてマイコンが異常を検出しているのではないかと思うのだ。


    ・電源基板の回路調査

     電源基板にシャーシーから取り外した電源トランスと電源ケーブルを接続し、電源プラグをコンセントに差し込む。電源基板の上には、小さな電源トランスが搭載されている。

     電源基板の裏の回路パターンを見ながら各部の電圧出力を確認して行く。基板上の小さな電源トランスからの交流出力はあるが、外付けの大きな電源トランスからの交流出力が無い。

     回路を良く見てみると、基板上のトランスにはAC100Vが直接供給されているが、大きな電源トランスには、基板上にあるリレーのリレー接点を通じてAC100Vが供給されるようになっている。

     基板上の電源トランスからは、ディスプレィのVFD(蛍光表示管)用の-30V、回路用の+5V、 リレーの駆動用電源+10Vが出力されている。どうやら、これらがスタンバイ用の電源のようだ。 +5Vはマイコン用だろう。メイン基板と繋ぐコネクタ端子を良く観察すると、GND、+5Vの他にPWR-CHK、PWR-CTRL という名前の端子があった。

     PWR-CHKは、回路のパターンを追いかけて見ると、オープンコレクタのトランジスタスィッチで、スタンバイ電源が入っているとオンしており、マイコンがこれでAC電源の入力の有無を監視しているようだ。 PWR-CTRLは、マイコンからの出力でリレーを動作させる端子だ。

    トランスと電源基板とメイン基板を接続して出力電圧の確認を行う
     電源基板にメイン基板を接続し、メイン基板に操作パネルを接続して電源ボタンを押して見る。電源ボタンを 押すと同時にリレーが働き、すぐにリレーがオフとなった。リレーがオンになると、外付けの大きな電源トランスにAC100Vが供給され、基板上の各種電源が出力される。つまり、リレーのオン/オフ制御により、ミニコンポの各ユニットで必要なメイン電源を制御しているのだ。

     これらの内のどれかが出力不良かも知れないと思い、出力電圧を確認しようとするのだが、何しろメイン電源が生きるのは、わずかコンマ何秒だから、どれが正常なのか異常なのか全く判らない。


    ・電源基板の出力確認

     メイン基板のマイコンからの制御により、リレーが動作してメイン電源が活性化されることが判ったので、 リレーを駆動するトランジスタのスィッチ回路をクリップコードでバイパスし、強制的にリレーを 動作させてみた。この状態でメイン電源の各電圧出力を確認する。

     アンプを駆動する+22V/-22V、CDプレヤーを駆動する+12V/-12V、CD/MDのデジタル回路、アナログ回路用の+5V、+6Vなど、全て正常に出力している。出力異常は見当たらない。アンプ駆動の22Vは、プラスマイナス同じ値であるし、ICメーカーが推奨する電圧値だから問題ないはず。

     電源基板には、定電圧電源IC6個とアンプのハイブリッドIC1個を冷却する大きな アルミヒートシンクが取り付けてある。そのヒートシンクには、温度センサーが取り付けてあり、温度が上昇すると冷却ファンが回転して、ヒートシンクを強制空冷するようになっている。温度センサーによるファン回転のテストは特に必要もないだろうと思い省略した。

     どうやら電源基板そのものに不具合はなさそうだ。


    ・再 考

     今、目の前にあるのは、操作パネルが繋がったメイン基板と電源基板とトランスだけ。MDユニットもCDユニットもアンプ基板も繋がっていない。この状態で何度テストするも症状は全く変らない。一体、マイコンは、何を検出しているのか。

     出品者の森本さんからの報告では、基板割れやクラックは見つからなかったとのことであったが、確かに、何度基板を眺めて見ても、それらしき不具合は見つからない。もう一度考えを整理して見よう。

     MDユニットやCDユニットの異常を検知したぐらいでは、マイコンがメイン電源を落とすようことは無かろう。こういう場合には、ディスプレィにエラーを表示するはずだ。メイン電源を落とすのは、安全に係わるような重大な異常を検出した場合に限られるはず。

     必要な電源が得られない場合にも、このまま動かすよりも、安全のために回路を停止するように動くだろうとの推測で電源回路を疑って見たわけだが見事に外れてしまった。何かヒントでもないものだろうか。


    ・ヒントを求めて

     D-MS3に関するメーカーのニュースリリースを読むと、

       「今回発売する新製品は、2モデルとも質感に優れたアルミを多用した高級感あふれるデザインに統一。 また、高音質設計のスピーカーを始め、上位機種に用いられているパワーアンプ回路の採用などにより、 クラスを超えた高音質を実現しています。」

    とある。

     この下線部に注目。上位機種がどの機種を差すのか判らないが、アンプの取扱説明書を調べれば 電源LEDが赤色点滅する意味が判るのではないかと思い至る。早速、DENONのサイトからプリメインアンプPMA-SA1の取扱説明書をダウンロードして見ると 次のような記述があった。

       「本機に搭載されている保護回路が動作(スピーカー出力の短絡、スピーカーへの直流出力、 セット内温度の異常上昇など)したとき、赤色に点滅したままとなりスピーカー出力が遮断されます。 この場合速やかに電源を切り、接続などの確認をしてください。」

     D-MS3の取扱説明書にはこのような記述は一切無いが、同様のアンプ保護回路が当然備わっていると思って良かろう。


    ・アンプ基板の調査

     何らかの不具合によりアンプの保護回路が動作して電源が落ちているのかも知れない。アンプ基板に疑いの 目を向けて調査を開始する。

     アンプ基板とメイン基板を接続するケーブルコネクタの各端子を、基板に印刷された文字で 読み取って見ると次のような、13種類の端子があった。

     LMUTE、R-CH、L-CH、A-GND、PROTECT-DET、SP-RLY、AMP-STB、LEVEL、
     VDD、VEE、GND、AGND、SP-GND

     ここで、PROTECT-DETに注目。これは多分保護回路の動作を示すものだろうと推測できる。 SP-RLYは、スピーカーを繋ぐリレーのオン・オフ制御だろう。良く判らないのは、AMP-STBとLEVELだ。 この2つの端子の役割が良く判らない。

     AMP-STB は、アンプスタンバイの略だろう。アンプが準備できていることをアンプからマイコンに 通知する信号か、それとも逆にマイコンからアンプをスタンバイ状態に設定する信号か。また LEVEL とは何のレベルでどういう役目のものなのか。

     残りの端子は読んで字の如く、電圧やグランド、オーディオ入力だ。

     アンプ基板を元通りに電源基板に組み込む。メイン基板と接続して電源を投入した瞬間の各端子の信号を テスターで測定して見たが、やはりコンマ何秒の通電では、測定しようが無い。 このアンプが正常なのか異常なのか、マイコンとは切り離して単体で動作させて確認してみることにする。


    ・アンプ基板の単体動作

     アンプを単体で動作させるためには、マイコンが行う最低限の制御を、マイコンに代わって外部から 何かしら細工をしてやる必要がある。また、電源入り・切りのスィッチや、テスト用の音源が必要だ。

     外付けの回路を準備する。まずは、電源基板に、メイン電源を活性化させる リレーを動かすスィッチを取り付ける。このスィッチをテストシステム全体の電源スィッチとする。

     アンプ基板のスピーカー端子に、ラジカセのジャンクから取り外した壊してもよいスピーカーを半田で 直付けする。スピーカー端子が壊れているので直付けするしか手が無い。 このスピーカーのインピーダンスは4Ωだ。アンプに接続できるスピーカーの仕様は、 6Ω以上となっているのでスピーカーに2Ωの抵抗を直列に繋いでおく。

     音出しのための音源は、MDデッキを使うことにする。MDデッキは、ジャンク品として 手に入れたDENONのDMD-M10だ。余談だが、このMDデッキのMDメカは、MD部分が元気だったONKYOのジャンクコンポから取り外したものと交換してある。まだまだ使えるジャンク完動品だ。

     MDデッキのアナログ出力を、アンプのR-CH、L-CH、AGNDに接続するのだが、デッキの出力はデッキ側で音量調節が出来ない。このままアンプに繋ぐと過大入力となる。途中にボリュームが必要だ。手元にあったBタイプ100kΩの2連ボリュームを通してアンプのオーディオ入力に接続した。

    電源基板にスィッチを付ける
    抵抗を繋いだジャンクスピーカー
    テスト音源はこのMDデッキ
    2連のボリュームを入れる

     SP-RLYは、回路パターンを追いかけてみると、プラス電圧を入力するとリレーが動作するようになっていた。マイコンからの+5V出力で制御しているようだ。マイコンからの出力の代わりとして、5kΩの抵抗で端子とVDD(+22V)を接続した。

     AMP-STBは、その意味が良く判らないので、取りあえずは何も接続しないでおいた。この状態でアンプの動作テストを開始する。


     ボリュームを絞った状態にして、電源基板に取り付けたスィッチをオンにする。コネクタの電源端子には、+22Vと-22Vが正常に印加されている。

     次に、MDデッキに録音済みのMDをセットし再生を開始する。ボリュームを少しずつ右に回して行くが、スピーカーからは音が出ない。やはりこのアンプは壊れているのだろうか。

     そこで LMUTE 端子に着目。ここに何も繋がないでおくとミュート機能が働くのかも知れないと思い回路パターンを追いかけてみる。しかし、ここには何も繋がなくて良かった。+5Vを入力してやるとミュートが働くようになっていた。

     原因が判らずアンプを構成するハイブリッドICを疑い、ICの各端子をテスターで測定してみる。IC(STK402-030)の端子表を参照しながら、+Vcc、-Vcc、Pre+Vcc、Pre-Vccを測定して見る。それぞれ、+22V, -22V, +20V, -20V でなければならないが、なぜか Pre-Vcc が 0V と電圧がかかっていない。

     回路パターンを追いかけて見ると、意味不明であった AMP-STB に+5Vを入力することによって-20V が加わるようになっていた。2kΩの抵抗で、AMP-STB とVDD(+22V)を繋いでやったら、アンプICのPre-Vcc端子に無事に-20Vの電圧が現れた。

     これでスピーカーからの音出しがうまく行くと思ったのだが、なぜか鳴らない。アンプを単体動作させるためには、まだ何か仕掛けが必要なのだろうか。

    スピーカリレー、負電源活性のために抵抗を接続
    テスト回路全体の様子
    横から見るテスト回路
    音出しのためにヘッドフォン回路も接続する

     アンプ基板には、もう一つコネクタがある。ヘッドフォンを接続するコネクタだ。このコネクタにHP-DETという端子があり、回路パターンを追いかけると、スピーカーリレーを駆動するトランジスタをオンオフ制御していた。

     HP-DETは、High Power Detect の略で、高出力を検出した際にスピーカーリレーをオフにしてスピーカーを保護するものだと思ったのだが、実はそうでは無かった。これは、Head Phone Detect の略で、この端子に何も繋がないでおくと、ヘッドフォンが接続された状態となりスピーカーリレーをオフにしてしまうのだ。この端子をグランドに落とすことによってヘッドフォン未接続となり、スピーカーリレーが SP-RLY 端子の信号に応じて動作するようになる。

     ここまでの調査で、やっとスピーカーから無事に音が出るようになった。アンプ基板には、アンプIC の他に、 20個余りのトランジスタを使って、ミュート回路やスピーカー制御回路、ならびにアンプ異常検出回路が構成 されている。この状態で、PROTECT-DET端子を調べて見ると何も電圧が現れない。

    冷却FANはなぜか廻らない。
    故障か、仕様か?
     2時間ばかり音出しをして見る。 アルミのヒートシンクが熱くなってくるが冷却 FAN が廻り出すようなことは無かった。 ケースに組み込めば熱もこもり、更に温度上昇してFANが廻るのかも知れないが、ヒートシンクは結構熱いので、 このぐらいの温度上昇でも FANが廻っても安全上の観点からは問題無いはずなのだが。

     オーディオ製品だけにFANを廻すのはぎりぎりまで待つという仕様なのかも知れない。PROTECT-DET端子にも変化は無い。
     後日の調査で冷却FANは、アンプ基板と電源基板だけでは動かないことが判明、テスト回路ではFANが廻らなくて当たり前。

     この際のついでに、アンプの異常検出(スピーカー保護)回路を解析してみた。このアンプ基板では、 トランジスタ回路による出力保護回路が構成されている。保護回路は、異常を検出するだけで、 スピーカーをオフにするなどの動作はしていないようだ。異常検出の結果をPROTECT-DETによりマイコンに通知し、 それを検知したマイコンがSP-RLYを制御してスピーカーを遮断する。マイコンは、さらに電源基板のPWR-CTRLを制御することによってメイン電源を切断し、アンプの電源を遮断するものと思われる。

     異常検出回路では、アンプ出力のスピーカーへの過電流、アンプ出力の直流バランスのずれ、 アンプに印加される正負電源のずれをそれぞれ 検出している。いずれも異常を検出した際には、PROTECT-DETがオンになり、マイコンが信号レベル0を検出するようになっている。

     残る1つの端子、LEVEL だが、ここには、アンプ出力の交流信号の一部を半波整流した直流電圧が出力されていた。どうやら、マイコンでアンプ出力を測定できるようにしているようだ。

     以上、アンプ基板を単体で動作させてみたわけだが、何ら期待する不具合点は見出せなかった。こうなると原因が全く掴めない。

      電源、マイコン接続用コネクタ
      端子名称信号方向機能
      LMUTE
      IN
      ミュートの制御、マイコンから+5Vの入力でオンとなる
      R-CH
      IN
      右チャネルオーディオ入力
      L-CH
      IN
      左チャネルオーディオ入力
      PROTECT-DET
      OUT
      アンプの出力保護回路の動作通知、正常時オフ、異常検出時オン
      SP-RLY
      IN
      アンプ出力のスピーカーリレーの制御、マイコンからの+5Vの入力でリレーが動作
      AMP-STB
      IN
      アンプの負電源の制御、マイコンからの+5V入力でアンプの負電源が有効となる
      LEVEL
      OUT
      アンプのオーディオ出力レベル、アンプの出力の一部を半波整流した電圧が出力される
      VDD
      IN
      アンプの正電源入力(+22V)
      VEE
      IN
      アンプの負電源入力(-22V)
      A-GND
      オーディオ用アナロググランド
      GND
      電源グランド
      SP-GND
      スピーカーグランド

      ヘッドフォン接続用コネクタ
      端子名称 信号方向機能
      HP-DET
      IN
      ヘッドフォン接続時オープン、非接続時AGNDを入力する。この端子がオープンとなると スピーカーリレーがオフとなりスピーカーが鳴らなくなる。
      R-CH
      OUT
      左チャネルアンプ出力(ヘッドフォン用)
      L-CH
      OUT
      左チャネルアンプ出力(ヘッドフォン用)
      A-GND
      オーディオ用アナロググランド


    ・振り出しに戻る

     一番疑わしい電源基板やアンプ基板が正常となれば、一体不具合はどこにあるのだろうか。全くもって迷宮入りかと思った矢先、新たなヒントをこの後に掴む。

     もう一度様子を見ようと、電源ボタンを入れたり切ったりするが症状は変らず、そんな時、何気なくセットボタンを押して見たら、ディスプレーに「CLOCK」と表示された。電源ボタンのLEDは、相変わらず赤色点滅するものの 電源が落ちない。

     ここでジョグダイヤルを押すと、「DISPLAY/ADJUST」の選択表示に変る。時刻の表示・設定モードになったようだ。この先、時刻設定が可能かどうか試して見たが、設定不可能である。「CLOCK ERROR」となったり、設定した時刻を操作の最後で反映しようとしても初期設定がされない。

     何度も繰り返し試して見るがうまく行かない。それと、何か表示も変だ。マニュアルを読み返して見ると、項目選択時には、現在選択されている方の項目が点滅するとあるが、それが点滅していない。

     時刻設定が不可能、かつ点滅表示するはずのものが点滅しない、ということからインターバルタイマーの回路不良かも知れないと想像する。


    ・発振回路不良か?

     メイン基板のマイコン付近の回路を眺めて見る。使われているマイコンは、NEC のuPD784218Aだった。マイコンのクロックを発振するセラロックの隣に時計用の発振 回路があった。32.768khz の水晶振動子を使った発振回路だ。インバータICと水晶で作る一般的な発振回路が マイコンに内臓されているものだ。

    ミニコンポの頭脳
    NEC製マイコンUPD784218A
     オーディオ機器には、なぜかカレンダーというものが無い。お休みタイマーにしろお目覚めタイマーにしろ、曜日や時刻の設定しかない。何月何日の何時何分に録音を開始するというような日付を指定したタイマー機能はない。 スタンバイ中にディスプレィに表示される時刻も「時:分」だ。

     デジカメなどのように年月日の設定を可能にしてしまうと、うるう年や月の大小を判断するカレンダー用のICなどが別途必要になりコストアップとなる。腕時計もそうだが日付が必要で無いものは、例えば0.5秒周期等のタイマーさえあれば良い。タイマーの刻みをカウントアップしていくことで時計が実現できる。

    クロック発振回路
    手前の青い部品はセラロック、その後ろのコンデンサと水晶が時計用の発振回路素子
     ミニコンポの場合、このタイマーは、マイコンのクロックから生成することも可能だが、何しろマイコンのクロックはセラミック発振で精度が悪い。マイコンが扱う領域は、人間のボタン操作の領域なので高精度なクロックは必要なく、セラロックなどの安い発振回路で済ませているわけだ。精度の要求される時計のために水晶を使った精度の高い発振回路を別に組み込んでいるというわけだ。

     この時計用のインターバルタイマーで、ディスプレィ表示の点滅処理もしていると思われるので、次にこの時計用の発振回路を疑ってみたわけだ。この回路が発振停止しているかも知れず、取り合えず今付いている水晶振動子を基板から外して見た。これで確実に時計用の発振回路は停止した。

     この状態で不具合症状に変化が無ければこれが原因といえる。 動作確認をして見ると予想どおり変化無しだ。どうやらここの発振停止が原因だろう。水晶振動子の不良かも知れない。

     そこで、水晶振動子やコンデンサを別のものと取り替えて動作確認をして見るのだが全く症状に変化なし。マイコン内臓の発振回路が不良なのだろうか。 不思議に思い、水晶振動子の端子にデジタルテスターを当てて交流電圧を測定して見ると約0.2Vの交流信号が確認できた。発振は問題ないようだ。発振回路は発振しているのに症状は変らないということは、マイコン内部のインターバルタイマー生成回路(デジタルカウンター)の不良なのだろうか。

     ともあれ、水晶発振回路の発振の確認を確実にするために、知人からオシロスコープを借用し、発振波形を観測して見た。一周期約30usecの波形が管面で観測できた。32.768khzの一周期は、30.5usec なので間違いなく発振している。


    ・マイコン内部の不良?

     ここに至って、もう不具合がどこにあるのか皆目判らなくなってきた。残る調査箇所は、 CDプレヤーユニットとMDユニットになる。しかし、電源基板とメイン基板だけの組み合わせでも出ている症状だから、 これらのユニットは、まずもって問題無いと思われる。ギブアップだ。

     色々と調査を進めてきたが、結果して、不具合の原因、メカニズムの解明には至らなかった。 とはいえ、調査の段階で得られた事も多々あり、このような機会を与えてくださった このD-MS3の出品者森本様に感謝しつつ、故障箇所はマイコン内部に内臓された回路の不良 と断定し、今回の修理を終えることとした。


     不良原因特定のためには、完動品のD-MS3をもう一台入手し、 比較検討や基板の相互交換を行って見るのがいい。暫くして、 もう一台正常なD-MS3を入手したので、懲りずにまた調査を再開する。 そして簡単に解決するはずの所、またまた悩ましい現象に遭遇する。
     この修理話、まだまだ続くのである。