DENON MD/CDミニコンポ D-ME33の修理 2008.6.10


    ■風変わりなコンポ

    全点灯表示のディスプレー
    SDBの文字が少し薄い

     面白いコンポを入手した。左の写真のコンポがそうだ。見事にディスプレー部分が自己主張している。 メーカーが隠しで仕組んでおいたテスト用のデモ表示かと思ったがそうではないようだ。電源が入ったとたんに、 全ての表示項目が自己主張を始める。こちらは、何も操作をしていないし、期待もしていないのに我も我もと 表示し出すのだ。

     こんな状態でも、CDの開閉ボタンを操作するとトレイは開閉するし、MDを挿入口に差し込むと自動的に 取り込んでくれる。MDのプレイボタンを押せば、演奏が始まるし、飛び越し操作をすれば、曲も飛んでくれ るので問題は無い。しかし、いきなり5曲目などを選曲しようものなら、一体何曲目が選択されたのか、音 が鳴り出すまで判らない。こと、TUNERに至っては、周波数が今どこに合っているのか皆目判らない。 というか、CD、MD 以外は、音源に今何を選択しているのかさえ判らない。すべて手探りだ。

     デイスプレーの自己主張というものは、何も表示しないで真っ暗なままよりは、まだましかも知れない が、やはり困ったものだ。

     なお、このコンポ、表示不良の他、CD部分にも難の有るジャンク品だ。CDトレイは開閉すると先に書い たが、CDを全く認識しない。トレイを閉じて、CD認識に必要な時間、数秒待ってからCDのプレイ ボタンを押して見るが、CDの再生音が聴こえてこない。

     というわけで、早速、分解に取り掛かる。思い当たる故障箇所はいくつかあるが、デイスプレーのVFD 管やマイコン内部の回路不良であればお手上げだ。CDはピックアップの不良だろう。


    ■分 解

     ケースカバーのネジを緩め始めてすぐに気が付く。このコンポ、一度分解されているようだ。カバーを留めている ネジのサイズが一定ではなくバラバラだ。操作パネルを留めているネジに至っては一本も無い。内部のネジも 何本か欠けている。MDユニットを留めているネジなどは、全く異なるネジに変っている。どうやら分解はしたものの、 取り外したネジを紛失し欠品のままや異なるネジを使用したものと思われる。これだから、素人修理は困る。 (かくいう当方も素人修理なのだが)

     一度弄くり回した後のコンポの修理は嫌なものだがもう一つ嫌な事がある。このコンポ、内部が煙草のヤニでまっ茶色に 染まっている。プ〜ンとヤニの匂いが立ち昇ってくる。以前はヘビースモーカーだった小生だが、今は禁煙のお陰で、 このヤニの匂いが全く受け付けられない。CDやディスプレーの修理の前に、まずは洗浄を行うこととする。

     分解可能な所まで完全に分解し、丸洗いできるものは洗剤で丸洗いしヤニを洗い流す。回路基板もじゃぶじゃぶと水洗い したい所だが、そこは我慢して濡らした布で拭き取るだけにする。このため完全にヤニを取ることは出来なかったが、随分と ましになる。

     このコンポ、2005年製だ。まだ3年しか経っていない。なのにこれだけのヤニで汚れているのだから、煙草の煙が 充満する喫茶店やスナックなどで使われていたものだろうと想像される。


    D-ME33分解の様子


    スタンバイ状態では普通のコンポ
    電源オンでこんな状態になる
    ケースカバーを外す
    操作パネルを留めるネジが無い

    最初に操作パネルを外す
    CDの上にMD、右にメイン基板
    次にバックパネルを外す。
    05年製のラベルがある
    パネルの裏は煙草のヤニがべったり。
    この後TUNERユニットを取り外す

    大きなトランスやヒートシンクが見える。
    ヤニで茶色に染まっている。
    次はMDユニットだ
    台座毎取り外す
    台座金具のネジは有り合わせのもの

    台座からMDユニットを外す
    MDユニットのカバーを外す
    ピックアップレンズが汚れている
    レンズの拡大

    次はMDの下のCDユニット
    CDユニットを外す
    制御基板とプレーヤを切り離す
    これがCD制御基板

    CDプレーヤーを裏返す
    ピックアップユニットを取り外す
    トレー開閉用のギア機構も分解する
    ピックアップレンズ。
    カバーがあるがレンズは汚れていた。

    アンプ基板、電源基板、メイン基板が一体となっている
    基板を一体となったまま取り外す
    シャシーには電源トランスだけ
    電源トランスを取り外す。
    トランスの下もヤニだらけ
    メイン基板を切り離す
    電源基板(下)とアンプ基板(上)でヒートシンクを共用
    切り離したアンプ基板。
    アンプはハイブリッドICだ。
    こちらは電源基板。
    ヒートシンク左に温度センサー

    ■MD,CDの修理

     MDは正常であり、特に修理するような所は無い。分解のついでに、薄く曇ったピックアップレンズをアルコールで洗浄 しておく。

     CDの方だが、ピックアップからのレーザー発光はしているようだが、CDの認識が全く出来ない。ピックアップレンズが 汚れているようなので、アルコールで洗浄して見るのだが、一向に汚れが取れない。プラ模型の塗装用シンナーでも洗浄 してみたがこれでも落ちない。不思議に思い、ルーペで拡大して良く観察して見るとレンズ表面が梨地模様になっている。 いわゆるでこぼこ状態だ。これでは、レーザー光が収束するどころか拡散してしまい、CDを認識する事はとうてい不可能だ。

     以前に誰かが修理しようとした際に、誤って何かの溶液でレンズ表面を駄目にしてしまったのかも知れない。幸いな事に D-ME33のピックアップは、SONYのKSS-213CHで、D-MS3に使われているものと同じだ。そこで、ジャンクのD-MS3から取り外した ピックアップと交換する。こちらのピックアップは正常品だ。

     ピックアップ交換後のCDの動作は良好となった。さぁ、次は、ディスプレーの不具合の修理だ。


    ■ディスプレーの修理
    VFDドライバチップはM66005だ

     オーディオ製品のディスプレーには、高信頼性、高品位である蛍光表示管(VFD)が多用される傾向にある。 このD-ME33もそうだ。このVFDの表示制御には、専用のドライバーICが各社から製造販売されており、 D-ME33の操作パネル裏側には、その一つである三菱製(ルネサスに継承)のチップM66005-0001AFPが搭載されている。

     修理に取り掛かる前に、以下のサイトからVFDやドライバチップに関する情報を収集する。特にVFDの動作原理の 理解は修理には必須の知識となる。また、ドライバICのピン配置図も重要な資料だ。


     メイン基板と操作パネルの基板を接続するケーブル上の、VFDの表示制御に関する信号は次のとおり。

      基板名称接続先
      -30VVFDフィラメントならびにドライバICのVFD駆動用負電源(Vp)
      FL1、FL2VFDフィラメント交流電源(AC5V)
      +5VドライバIC用正電源(Vcc)
      DGNDドライバIC用グランド(Vss)
      FLD-RSTドライバICリセット(RESET)
      FLD-CEドライバICチップセレクト(CS)
      FLD-DATAドライバICシリアルデータ(SDATA)
      FLD-CLKドライバICシリアルクロック(SCK)

     メイン基板のマイコンからは、FLD-CS,FLD-DATA,FLD-CLKの信号線にて、ディスプレーに表示するデータをドライバチップに送信しているわけだ。

     不具合箇所調査の取り掛かりとして、定石どおりに各部の電圧を測定する。測定箇所は3箇所、-30V、FL1,2、+5Vだ。

     電圧測定の結果、-30Vの電圧が-16Vになっている。+5VやFL1,2は問題ない。電源基板の回路不良かと疑ってみたが、操作パネルを切り離すと-30Vは正常な値となる。VFDが全点灯しているためにフィラメントとアノード間の電流がたくさん流れ、-30Vを作成している電源回路の電圧が容量不足でドロップしているようだ。

     次にVFDのグリッドやアノードの端子電圧を測定して見る。これらの端子には、ドライバICからの出力が接続されている。 正常ならば、-20数ボルトを示すはずだが、全ての端子で+5Vが観測された。これでは、全点灯するはずだ。ドライバICの不良かも 知れない。

     そこで、ドライバICへの+5Vの供給を断にして動作確認を行って見る。ドライバICは動作しないので出力端子(グリッドやアノード)がどうなるか興味深々であったが、なんと出力端子には、Vp端子に印加している-30Vがそのまま出力されていた。勿論、VFDは、全消灯となった。ここまでの確認で、VFDは正常、ドライバICの不良と判断する。

     さて、ドライバICの不良となれば、修理はICの交換しか手が無い。D-ME33のVFDは、見る限りジャンクのD-MS3のVFDと同じ仕様のものが使われているように見える。D-MS3のドライバICもM66005-0001FPと、若干異なるが同じ仕様のものと思える。 そこで、D-MS3のパネル部品が流用できるか動作確認をして見ることにした。

     D-MS3のパネル基板の信号配列は、D-ME33と異なっており、そのまま付属のフラットケーブルで直結という訳には行かない。先述の最低限必要な信号のみケーブルで引き出して、D-ME33のメイン基板の端子に半田付けした。D-ME33の本体とD-MS3の操作パネルという組み合わせで動作確認を行う。結果は正常に動作する。

    D-MS3のパネルから信号を引き出す
    D-ME33のメイン基板に接続
    組み合わせ試験は正常だ

     D-MS3のパネルで正常に動作することが確認できたので、修理のためには、D-MS3のパネルの正常なドライバICと、D-ME33の操作パネルの不良ドライバICとを交換すれば良いことになる。言うのは簡単だが、この作業はちょっと難関だ。何しろ64ピンのフラットパッケージのICを、基板側にもIC側にも傷付けること無く取り外す必要がある。こんなことが果たして可能なのか。

     特に専用の道具など持ち合わせていない。あるのは半田鏝一本と不確かな工作技量だけ。無謀とも思えるこの作業に 挑戦して見ることにした。

     片側32ピンの半田を纏めて溶かす冶具でも作ってみようかと思ったが止めにした。というのもICの足を浮かしただけで、 ICが基板から簡単に外れる訳では無い。ICは、製造工程途中において位置がずれないように接着剤で基板に固定されている。 全ピン、確実に基板から浮かした状態にした後、どうにかしてICを力任せに基板から引き剥がす必要がある。

     ピンを簡単に浮かす方法が無いか考えて見た。半田鏝を当てただけではピンは浮いてくれない。ピンセットでつまんで 浮かすには、あまりにもピンが細すぎる。そこで、0.3mmの単線ワイヤーをICのパッケージとピン並びとの隙間に通し、 ワイヤーの片側は基板の隅に固定し、半田鏝をピンに当てつつ、ワイヤーのもう一方の側を手前に引っ張って行くことによって、 ピンを浮かしていく方法を思い付く。

     早速やって見るとこれがなかなかにうまく行く。あっという間にICのピンを浮かしてしまうことが出来た。予想したとおり ピンが浮いてもICは基板から外れない。少々の力ではピクリとも動かない。基板に傷を付けないよう注意しながら、ICのパッケージと基板の僅かな隙間に細い小さなドライバーの先をこじ入れ力を加えて見たらポロッという感じでICが剥がれた。

    D-ME33のドライバIC(0001AFP)を取り外す。
    黒いのは接着剤の跡
    D-MS3のドライバIC(0001FP)を取り外す。
    こちらは赤の接着剤

     後は外したICを取り付けるだけだ。不良のICをまずD-MS3のパネルに取り付けて、取り付けの練習を行って見る。この後、D-ME33のパネルに正常なICを取り付ける。動作テストをして見ると、ディスプレーの半分程が点灯する。半田付け不良だ。 再度、半田の付け直しを行う。2〜3度この作業を繰り返してうまく動作するようになる。

    D-ME33にD-MS3のドライバICを取り付ける
    動作テストは良好

     ディスプレーの動作が正常になると、「SDB」の表示が少し暗いのが気になる。全点灯していた時から 暗いので、アノードに塗布された蛍光材料の劣化が起こっているのかも知れない。

     もう一点、表示のチラツキが気になる。ピンが接触不良のような症状を示す。ドライバICのピンの 半田付けを見直して見たが問題はない。ちなみに、ドライバICのCRによるクロック発振回路付近を 手で押さえて見ると症状が顕著に現れる。どうやらクロック発振が不安定なように思われる。 ドライバICの内部回路が半田鏝の熱でいかれてしまったのだろうか?

     気になる所はあるものの、通常の動作には全く問題無い。これで、完動品に生まれ変わったといいたいが、 やはり立ち昇ってくる煙草のヤニの臭いがどうしょうもなく、暫くケースカバーを開けて臭いが抜けるのを 待つことにする。

    (後日談)
     その後、数日に渡り様子を見てみた。煙草のヤニの臭いは除々に薄れ一安心なのだが、時折、 それも確実に、ディスプレーの表示がチラツキを起こす。 良く観察していると一瞬、表示すべきでないものが表示されたり、文字が化けたりしている。 ドライバーICの半田付け不良かと思い、ICを一旦取り外し、もう一度半田付けをやり直してみたのだが、 症状は変らない。

     ドライバICの表示制御の仕組みからは奇異な、このデジタル回路らしくない不具合症状になんとも合点が行かず、さらに「SDB」の文字表示が暗いのが気に障り、 ドライバーICを流用したジャンクのD-MS3から、ディスプレー部分(蛍光表示管(VFD))も流用して 見ることにした。

     蛍光表示管(VFD)は、ピン数が、フィラメント4ピン、グリッド15ピン、アノード35ピンの合計54ピンも あるが、64ピンのドライバーICに比べれば、取り外し、取り付けは容易だ。

    これが取り外したVFD
    VFDの裏側、金物は台座。
    双葉電子工業製だ。

     取り外して見ると、D-MS3のVFDとD-ME33のVFDとは、表示項目に一部差異が見られた。 この違いは、DVD対応(D-MS5DVやD-ME5DVに使われた場合)の項目であり特に問題は無さそうだ。前に仮 テストした時も不具合を感じなかったので問題無いはずだ。

     ただし、取り付け構造の差から、D-MS3から外したVFDは、ピンの長さが若干短く、そのままでは基板に半田付けが出来ない。そこで、VFDの裏側にあるシールド台座を取り外し、高さを調整して半田付けを行った。

     ちなみにこのVFD、ラジコンプロポで有名な双葉電子工業製のカスタム品であった。

     VFD交換後のテストを行って見ると「SDB」の表示が明瞭になったのは当然として、ずっと頭を悩ませていた あのチラツキ現象が全く見られない。どうやら、チラツキの原因はドライバーICの不良やその取り付け不良などでは無くVFDにあったようだ。

     ドライバーICの不良により全点灯したためにVFD内部に過大な負荷がかかり、性能劣化を起こしてしまっていたのだろう。