レトロなオーディオ機器のジャンク収集を始めたことから、カセットデッキの修理に嵌ってしまった。 同じ修理するなら、その昔名機と呼ばれたものや、さもなくば、ユニークで面白い機器を修理してみたいと思い、 ハードオフに出向いたり、ヤフーオークションで、それらしいジャンク品を探すのだが、 なかなかにこれといったものに出会わない。 AIWAの名機を手にしたいとヤフーオークションを眺めていると、XK シリーズに混じって古いAD-7600の ジャンクが目に留まった。AD-7600について ここで調べて見たら、 このデッキ、結構面白いデッキのようだ。 それまで、カセットハーフを水平設置した上面操作のカセットレコーダーが、いつしかカセットデッキとして、 システムオーディオに組み込まれるようになると、前面操作を実現しようと、カセットハーフは、垂直設置へと 変化していった。
それまでの水平設置の良さを残しつつ、前面操作を実現したデッキがAD-7600だ。カセットハーフを
入り口にセットすると、自動でカセットを引き込んで、デッキの奥に水平設置するという。完全に水平設置して
しまうとテープの動きが見えなくなるので30度傾けて設置するらしい。さらに、ランプ照明も上下2方向から行い、
テープ動作の確認を容易にしているという。こういうギミックに弱い私としては、興味津々である。このデッキ
のカセットメカは、結構複雑だろうと思われる。一度中を覗いてみたいものだ。 ちなみに、ネットでAD-7600をググッて見ると修理記事が一つみつかった。読んでみると、ページ作者は余りにも 複雑すぎるメカに手を焼いて、その修理は根をあげそうだとおっしゃっている。掲載されている写真を見て、 「なるほど複雑そうだ。ぜひ手に入れて修理に挑戦してみたい」と一人意気が上がる。 その他にもう一つ、当時このデッキを新品購入して使っていた人の感想が見つかった。このデッキの特徴である カセットハーフの自動ローディング機構がよく壊れ、自動ならぬ手動ばかりで使っていたという。果たしてこの デッキのローディング機構はいかなるものなのか、ますます興味が湧いてくる。 AD-7600に関して、この2つ以外に有用な情報は見つからなかった。 ■ジャンクの「AD-7600」 さて、オークション出品のジャンクだが、通電するが扉も開かず何も動作しないという代物。 出品価格は500円であった。古いジャンクとしては妥当な価格かも知れない。こんなものを欲しがるのは 私だけなので簡単に落札出来た。 届いたAD-7600を、まずはじっくりと観察してみる。外装周りは次のとおり。
果たしてこのジャンク、動作するのかしないのか。動作確認をしてみたいが、何しろこのような状態で 通電するのはちょっと恐い。動作確認は、中の様子を見てからとする。 ケースカバーを興味津々で開けて見た。まずは、多数のケーブルが目に付く。それと、なんとなく漂ってくる 煙草のヤニの匂い。電解コンデンサの液漏れらしい匂いはしない。
表から見える部分の様子が判ったので裏側のケース蓋を開けてみた。同軸ケーブルが4本、基板に半田付けしてあった。 こういうのを見ると一気に修理の気力が萎えてしまう。分解に半田鏝を使うのは勘弁してもらいたいものだ。 朽ちたゴムベルトを根気良く拾い集める。このゴムベルト、見た目には、外側が白く変色し亀裂があって短く切れてしまっているのでボロボロのようだが、 うっかり手で触ろう物なら酷い目にあう。グチュと潰れて真っ黒になるのだ。床下に落ちた小さな破片をうっかり踏んでしまい、 靴下から床まで真っ黒になってしまった。
ここまでの確認で、内部はそんなに埃を被ってはいないこと、ケーブル類もしっかりしていることから通電しても大丈夫だろうと判断する。 ゴムベルトが全て全滅なのでテープ動作を伴う動作確認は出来ない。そこで、せめてメイン回路のアンプ部分だけでも大丈夫かどうか確認してみることにした。 通電すると、VUメータや心配していたカセット格納ケース内部の上下の照明ランプがちゃんと点灯した。ただしテープランニング表示のランプは点灯しなかった。 メカ機構の動作に不安はあるが、ポーズとプレイーと録音の3つのキーを同時に押して見たらカセット格納ケースの左下にあるRECの赤色LEDが点灯した。 ここで試しに、LINE-INにオーディオ信号を入力し、録音ボリュームを右に廻していくと、左のVUメータが振れ出した。右のメータは一向に振れる気配が無い。 VUメータの不良なのかどうか、ヘッドフォンを繋いで確認すると、やはり右側からは音が聴こえない。LINE-OUTをアンプにつないで確認すると、こちらも右からの音が聴こえない。 LINEとMICの切替をMICにして、マイク入力でも試して見たが、結果は同じであった。どうやら、基板の右チャネル側のどこかが壊れているようだ。 前回修理したKD-3の時のように、スィッチ類の接触不良であればよいのだが、トランジスタでも壊れていたらちょっと大変だ。まずは、分解・清掃と カセットメカをきちんと動くようにするのが先だ。その後でこの問題には対処することにする。 ■分解・清掃・修理 煙草のヤニを取り除くため、操作パネルやシャシー、ケース類に取り付いている パーツを全て取り外し、洗浄可能なものは、全て洗剤による洗浄を行った。 カセット格納ケースも本体メカから分離し、ローディング機構のパーツを外した後、シャシー類とともに 洗剤で丸洗いを行った。ケーブル類は濡れた雑巾で埃とヤニを拭い取っておいた。
今回の修理ポイントは、次の5点。
ただしベルトは、メーカーからの入手は不可能なので自作とする。 ・カセット自動ローディング機構を動くようにすること。 ・カセット格納ボックスの扉を直すこと。 ・テープランニング表示のランプを交換すること。出来ればLEDに交換する。 ・右チャネルアンプ不良の原因調査と修理。 ゴムベルトは、過去の修理品から取り外したベルトやゴムシートから切り出した自作のベルトで代用したが、 メインベルトとカウンター駆動ベルトは、今回新たな素材から作成した。 メインの平ベルトは、直径が大きく、従来のようにゴムシートから作成するのは困難と判断。 そこで適当な素材として、下着用のゴム紐を採用した。ゴム系接着剤Gボンドを使って 接着したらそれなりに使えるベルトとなった。 カウンター駆動ベルトは、あまりテンションが強すぎても駄目で、かといって緩すぎても駄目だ。ゴムシート から切り出して作ったベルトは硬過ぎてうまく装着できなかった。そこで、こちらも新たな素材として、 髪結に使う黒く細いゴム紐を採用した。糸が巻いてあるためGボンドで簡単に確実に接着出来た。
カセット自動ローディング機構については、モーターからの駆動力を伝えるプーリーがゴム製のアイドラーとの間で 空滑りをしていたので、プーリー側に薄いゴムベルトを巻きつけて摩擦力をアップさせておいた。 カセットキャリアーのアイドラーと接する面に貼り付けてあったゴムも古くてボロボロになっていたので、 ゴムシートから切り出したゴムに張り直しておいた。 カセット格納ボックスの扉の開閉不良は、開閉アームに取り付けるピンの部分が折れていたことによるもので、 ピンを瞬間接着剤で接着して修復しておいた。これで問題なく開閉できるようになった。
テープランニング表示のランプは、予定通りにLEDに交換。その配線は、ランプ電源がAC7Vだったので
極性は気にせずに300Ωの抵抗を通してそのまま接続しておいた。 メイン基板とカセットメカ後方にある小さな基板に多接点のスライドスィッチが搭載されていた。このスィッチは、 カセットメカ本体を録音モードにするとレバー機構によりスライドするようになっている。ここの接点不良があると オーディオ信号が途切れたりする。スィッチの分解は不可能なので、隙間からイソプロピルアルコールをタップリと 流し込み、スライド操作を何回も繰り返しておいた。 ボリュームや入力切替スィッチ、バイアスやイコライザ切替スィッチもテスターで動作を全て確認しておいた。 不思議なことに、これらに不具合は全くなかった。使われている部品の品質が高いということかも知れない。 ■修理後の動作確認と試聴
修理完了後の動作テストを行う。まずは、カセットの自動ローディング機構を試してみた。カセットキャリアーに カセットハーフをセットして、少し奥に押してやるとローディングモーターが回転を始めキャリアーを奥に引き込もう とするのだが、トルク不足なのかアイドラーが滑ってキャリアーが奥に引き込まれていかない。 カセット収納ボックスやキャリアーなどのパーツは、全て洗浄したのでグリスが切れてしまったためにトルク不足 となっているようだ。必要な箇所をグリスアップしたらなんとか自動で引き込んでくれるようになった。 ヘッド部分は、磨耗も無く綺麗なものだ。ピンチローラーやキャプスタン軸は、アルコールで清掃した後、ヘッドの 消磁をしておく。テープを再生して見たら、左のVUメーターだけでなく右のVUメーターも振れている。どうやら右チャネルの出力不良は、 心配したアンプの不良ではなくスィッチの接触不良だったようだ。 メインベルトの出来具合に不安があったが、テープの再生音を聴いている限り全く問題ない。その再生音質は、 この当時のデッキとしては十分な音質だ。明るく力強い音が出ている。同年代のSONYのTC-K65と似通った音質といえる。 録音についても確認をしてみた。高音がこもるような事も無く綺麗に録音できていた。早送り、巻き戻し、 カウンターメモリによる自動ストップ(単純に000の位置で停止)も問題なく動作した。 このデッキ、電子回路部分に問題はなかった訳で、当時の製品の品質の高さに驚くばかりだ。 末永く使うのならばケースカバーは再塗装した方がよい。機会を見つけて再塗装してみたい。 |