六甲のハイキングコースには、熟練者向と指定されたコースが幾つかある。白石谷、西山谷、五助山がそうだ。
五助山は地震の影響で取り付きが判りづらくなっている。また、下り方向で歩くと特に道に迷い易い。実際このルートで一日中道迷いをしたハイカーがいたそうだ。迷ったハイカーは決して初心者ではない。ベテランでも迷うという道だ。
白石谷は、滝越えや巻き道が険しく上流部で道を取り間違え易い。
西山谷は、死亡事故も発生している難コースだ。既に二人のハイカーが亡くなっている。 事前にヤマケイや昭文社のガイドブック、先駆者のホームページで丹念に情報収集を行う。 ポイントは、F1、F2(ヤマケイのガイドブックによるフォール番号を使っている)を見逃さないよう第3堰堤を越えてすぐ谷に下ること、第5堰堤は慎重に安全に通過すること、滑落死亡事故のあったF7西山大滝は最初から巻き道を使い無理をしないこと、第6堰堤は巻いたらすぐに谷に下ること、れんが作りの第7堰堤にまで行き着いて戸惑うハメにならないようその後の続く2つの堰堤も沢から一つづつ巻いて越す、というようなことだろうか。 ただ、F13からF14にかけてのルートが事前の情報収集でもう一つはっきりしない。 この辺りグーグルの航空写真で見ると堰堤の数・位置がガイドブックの遡行図と一致しない。 それと最後のF18からの谷の脱出ルートの情報が不確かだ。 現地で実際に確認して見るしかない。(踏破後作成の西山谷上流部遡行図)何点かの不安を抱えながら西山谷遡行を実行する。 JR住吉駅から渦森台行きのバスに乗り、渦森台4丁目で降りる。渦森台東の端から千丈谷へと進む。 河原の右岸(左)の道を奥に進み、第2堰堤の手前で左岸(右)に渡渉し、天狗岩南尾根方面への分岐のある左岸の斜面を登る。 天狗岩南尾根への道をやり過ごし、第2堰堤上部右側のガードレールの所に出る。 第2堰堤と次の第3堰堤の間には、見るべき滝も無く、そのまま巻き道を辿って行っても良いが、第3堰堤の上 流部への降り口を見逃してしまうかも知れない。それをを避けるために一旦谷に下る。
ここで沢歩きの感触を確かめる。沢歩きの時は、いつもストックを一本使用する。浮石でバランスを崩しても転倒しないようにするためだが、今日は、急斜面の登りが多く予想され、かえって邪魔になると判断しストックを持ってこなかった。いつもした事のないスパッツも今日始めて着用した。その効果やいかにだ。 第3堰堤も手前右の斜面で巻いて上がり、堰堤の向こう側に降り立つ。少し進むと滝が現れる。正面にF1。F1の手前左の岸壁からも水が落ちてきている。ここも滝と呼んでもおかしくない。 F1を、右の岩棚から乗り越えて行くとF2。F2も右から越えて行く。その先にも小滝が現れる。カウント外の滝。こちらが本当はF2かも知れない。 F2を越えて行くと左斜め前方にF3が現れる。右手後方を眺めて見ると左岸の斜面から道が降りて来ている。第2堰堤から続く巻き道だろう。巻き道を辿ってくるとここF3に来るということだ。
なかなか迫力のあるF3を左から越えて行くと、小滝F4が現れる。F4は滝身の右を直登して越す。 F4を越えてF5ふるさとの滝の手前、左岸の岸壁から湧水がさかんに落ちている。白糸の滝ほどではないが見ていても飽きない。 F5ふるさとの滝、誰が名付けたか言い得て妙な意味深な名前の滝。言われて見るとその姿は、まさに○○○だ。滝の手前、左側の斜面を登り、滝の落ち口に登る。 F5ふるさとの滝を越えてすこし行くと左の岸壁に水飲み場がある。残念ながら飲水は不可。上流部は観光施設が立ち並ぶので水質は良くないらしい。
前方に第5堰堤が見えて来た。西山谷遡行の核心の一つ第5堰堤越えに取り付く。ガイドブックどおり、左斜面から登ることにする。ガイドブックでは、2つのザレ場、奥から登るとあった。一番奥の取り付き場所を良く観察する。 それにしても急斜面だ。まるで垂直な壁だ。高さも十分だ。ネットで見る上部の鎖場は見えないが、目の前の取り付きにはロープが幾つも見える。気合を入れて、登りにかかる。 垂直な壁をジグザグに登って行く。たくさんのハイカーが通過しているのだろう、踏み跡もしっかりとしており、ステップの置きどころもはっきりしている。 ロープと木の根のお陰で難なく上部に登り着くが上部に鎖場は無かった。どうもネットで見るルートとは異なる所を登ったようだ。堰堤からの下りも急斜面で難所であった。まさに垂直降下に近い。ロープを頼りに慎重に下る。 第5堰堤、事前に心構えをしていたためだろうか難なくクリア出来た感じがする。
この先、F6を右の岩棚で乗り越えて、この谷最大の滝、F7西山大滝に辿り着く。西山大滝は迫力満点の滝だ。暫しその姿に眺め入る。 この滝で滑落事故が起きている。クライミングの装備を持たない状態での滝の直登は慎まなければならない。滝の左側の岩棚を登り巻いて越す。 少し進むとF8、2段状の滝。右側の岩棚を乗り越えて行く。F8を過ぎると第四堰堤が立ち塞がる。
第4堰堤は、堰堤手前の右側の斜面を登り巻いて越す。堰堤上部右側から谷に降りる。ここの堰堤越えは特に難しい所は無かった。 谷に降りて沢の中を進む。小滝F9を右側から越えて先に進むと、F10、2条の滝が現れる。高さはそれ程でも無い。滝中央の水の無い所を直登して越える。 次に現れたのがF11。F10の2条の滝を半分にしたような滝だ。滝身の右側を直登して越す。
F11を過ぎると行く手に第6堰堤が立ち塞がる。堰堤手前左側の斜面、巻き道を登る。堰堤上部にあるガードレールの所を奥に進み、堰堤を越えて谷に下る。下りの道は、堰堤上流部右岸に、涸れ沢となった支谷が合流する辺りに降りてくる。 なお、ガイドブックにある第6堰堤から第7堰堤にまで続く、谷そのものを巻く道は、ガードレールの所より少し高い所にある。こちらの道からも、堰堤を越えて少し進んだ辺りで谷に下る分岐があり、同じ所に降り立つことが出来る。 谷に降りて先に進むと小滝F12が迎える。ここは左の岩棚を登り越えて行く。その後、滝とは呼ぶにはおこがましいような小さな小滝を乗り越えて進むと、また堰堤が立ち塞がる。 ガイドブックに「石組みの古い堰堤を2つ越える」と書かれている最初の堰堤だ。石組では無くコンクリート造りとなっている。石組の堰堤全体をコンクリートで固めて補強でもしたのだろう。 堰堤上部から滝のように水が落ちて来ている。上部は土砂で埋まってしまっているのだろう。谷に下る苦労はしなくて済むようだ。 堰堤手前の左斜面の巻き道を登り、堰堤上部に出る。案の定、上部は土砂で埋まっていた。 ふと時計を見ると11時半前。ゆっくりと歩いてきたので疲れは無いが、腹が減ってきた。持参のカステラでおやつ休憩を取る。 しばし休憩の後、流れの緩やかになった沢の中を進む。すぐに次の2つ目の堰堤に行き着く。ここも上部から水が落ちている。登るだけで良いのでほっとする。こちらもコンクリート造りだ。ここも左側斜面の巻き道で堰堤上部に上がる。
上部に上がると、こちらも土砂で埋まっていた。見ると湿地帯のような状況だ。潅木が茂りルートもはっきりしない。 ここは谷の2股で、左の支谷、右の本谷からの沢が合流する所、水量が豊富なために湿地帯となったのだろう。 足がズルズルと沈んでしまうのではないかと不安を感じつつ、一歩、一歩確かめるように河原の中央へと進んで行く。案ずるまでも無く河原の地面はしっかりとしており足を取られる心配はない。 左の支谷の奥には、れんが造りの第7堰堤があるはず。木々を透かして見えないかと目を凝らして眺めてみたが、見えなかった。結局、ネットでよく目にする第7堰堤は見ずに終わった。
潅木の中、右の沢の方へと歩いて行く。少し行くと沢の中心部に、岩塊のガレ山の中を水が流れ落ちる滝が見えて来た。これがF13なのだろうか? 中心部の岩塊を乗り越えて行くと、また同じような岩塊が現れた。さらに進むと小滝があり、その奥に堰堤が見える。こちらがF13なのかも知れない。 堰堤手前の左斜面の巻き道を登り堰堤を越える。こちらも上部は土砂で埋まっていた。先に進むと谷幅が狭まり沢の中は大きな岩塊で歩き難くなり左岸の沢沿いの道を進む。 一つ小さな滝に出会う。これがF14か。その奥にはまた堰堤が聳えている。F14を越えて道を進むと堰堤の右側下部に突き当たった。
この堰堤は新しい堰堤なのだろう、右岸の向こう側には、黄色のステップが取り付けてある。今居る左岸側の急斜面には、巻き道が見える。 さて、どちらから越せば良いのだろうか。実は、この時、自分的には、この堰堤の存在がガイドブックの遡行図と一致せず、この先の進行に不安を感じていたのだった。 ネットで、対岸の黄色のステップを登っているページを見たような記憶もあるが、取り合えずこちらの急斜面を登って見ることにした。 斜面を登って行くと、堰堤の工事中に作ったものだろうか、今は腐って崩れてしまっているが、丸太で整備された跡が所々見受けられる。堰堤の巻き道に間違いなかろう。安心して登って行く。 道は堰堤を高く巻き、金網の柵で保護された所を通過するとその先で踏み跡が不明瞭となった。このまま進むのは得策でないと判断し、元に戻ることにした。
急斜面を下り、堰堤の右側下部に降りてくる。堰堤中央部を渡渉し右岸のステップを登る。堰堤上部の左に登り着く。ここで周囲を眺め回して見る。滝らしきものが全然見えない。堰堤の上流部側も、この位置からはもう一つ良く見えなく判然としない。 どこかで誤って支谷にでも入り込んだのだろうか?一つ手前の堰堤を越えた所まで戻って見ようかとも思ったが、もう一度周囲を良く見てみようと、立入禁止の柵を越えて、堰堤上部を中央の方へ少し行ってみた。 そこから上流部を見てみると、谷の中へと進む明確な踏み跡を見て取ることが出来た。早速、元に戻り上流側へと堰堤を下る。 笹薮や潅木の茂る所を進んで行くと2股に出た。左の方向、右の方向それぞれに堰堤が見える。西山谷遡行ルート上の2つ目の2股だ。2股中央の小さな尾根に登り道が見える。 西山谷の本谷は左だ。右は支谷になる。左側本谷の沢の中を進む。すぐに堰堤にぶつかる。ここで左右の斜面を眺めて見るが巻き道となるような取り付きが全然見当たらない。 仕方なく少し戻り、先ほど見かけた2股中央の小さな尾根を登る道に取り付く。少し登ると道は尾根を左に巻く山腹の道となり、少し行くと鎖場に出た。向こうには丸太の階段道も見える。どうやら、うまく堰堤を巻く道に乗れたようだ。
鎖場を過ぎ丸太道を登ると、左手眼下に本谷の堰堤が見下ろせ、前方左手を見ると樹林を透かしてソーメン滝が見える。道は間違っていない。そのまま進むと谷に降りることが出来た。降り立った所で右横を見ると、また別の堰堤が聳えていた。どうやら支谷の合流部あたりに降りたようだ。 本谷側へと進むとF15そーめん滝が見えて来た。ここも言い得て妙な名前の滝だ。流しそーめんということだろうか。 滝の左側から奥に進み巻いて上がる。そーめん滝を過ぎると正面にF16が現れる。F16の左横は、崩れたガレ場。ガレ場の途中からも水が流れ落ちていた。どうやらこの西山谷は水が豊富な所のようだ。 F16は右の岩棚を越える。F16の落ち口の上に立つと、前方に一筋の水が流れるF17愛情の滝が見える。 F17へと近づいて行く。滝の右手奥のザレ場の急斜面がこの滝の巻き道となる。F17を見た後、この巻き道に取り付く。 巻き道は、急な斜面でずっと上の方まで登って行けそうだ。上部は尾根の道にでも繋がっているのだろう。
次の滝F18を見るには、斜面の途中から左に岩場へと乗り越える。出た所はF17の上、周囲が岩壁に囲まれた昼なお薄暗い所だった。右手の大きな岩塊の裏側へと直角に曲がって進むと、目の前にF18が現れる。 行く手は、このF18で阻まれている。谷を抜けるには、滝の右横の白い大きな岩を乗り越えなければならない。2本のロープが垂れているので岩を越えるのは不可能ではないのだろうが、それにしても大きな岩だ。 つるんとした表面で登るのは困難そうだが、よく見ると何とか足を掛ける所はありそうだ。ロープを確かめて見る。問題はなさそうだ。この先、見るべき滝は無いようだが、F17の巻き道に戻るのも面白くない。大きな岩に取り付く。
さして、困難も無くF18の上に出る。その先は、谷幅も狭く潅木が茂る中を上流へと進んで行く。またもや堰堤が行く手を塞ぎ、左の斜面を登り堰堤を巻く。 堰堤を越えるとそこは堆積した土砂で出来た広い空間。少し進むと前方右手に斜面を登って行く道が見えた。沢を右に渡り、登り道に取り付く。 道は、少し登ると低い笹薮道となり、その後、尾根に登る道となった。笹薮の尾根道を進んで行くと、近くの施設から犬の吼える声が聞こえて来た。車の走る音も聞こえてくる。谷の脱出ルートに乗ったことは間違いない。 サンライズドライブウェーとの出合いに無事に着く。時計を見ると13時を廻っていた。4時間余りも時間を掛けたことになる。20余りの滝、十数基の堰堤を乗り越えてきたのだから仕方あるまい。
この後、ガーデンテラスで昼食を取り、紅葉谷を下る。下山途中、新しく出来た炭屋道の前に来た時、この道だけを歩くようなプランを今後実行する事は考えられないだろうと思い、急遽登って見ることにした。
炭屋道の名前からして、炭焼窯の跡が幾つもあるのかと思ったが、残念なことに一つしかなかった。この道、結構、急登な道だ。今日のコースで一番の登り道になる。一気に汗が噴出してきた。あえぎあえぎ登る。 魚屋道に合流した所で休憩を取る。今日の山歩きの目的は完了、後は有馬温泉街でビールを飲むだけだ。ゆっくりと魚屋道を下る。
お決まりの温泉街のスタンドバーでビールを飲み、神戸電鉄有馬温泉駅から電車で帰路に着く。
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